新納ゆかい

ジーザス・クライスト・スーパースターの新納ゆかいのレビュー・感想・評価

5.0
時代を超えるメッセージのために


ジーザス・クライスト=スーパースターは、劇団四季を知る人なら知らない者は無いと言っていいミュージカルの名作だろう。原作は1971年にブロードウェイで初演を飾り、以降も「人間、ジーザス」を描くというタブーをはらみながらも、世界各地で人々の心を掴んできた。
映画は舞台初演から2年後の1973年に製作されている。

映画版はイスラエルの砂漠をロケ地とし、過酷な猛暑の中で撮影された。オープニングのナンバーが流れると小汚いロケバスが荒野の果てから登場し、ヒッピーたちが踊りながら下車してタイトルへ。やがて1人丘の上に佇み、喧騒を冷めた目で見つめるのがユダなのだが、なんとパンチパーマの黒人である。ナンセンスでアバンギャルド、過去のようで未来のような、不思議な世界観とともにおなじみのナンバーが流れていく。
特にヘロデ王のシーンは必見の珍場面である(笑)


神を信じて集った民衆に翻弄されて自分を見失っていくジーザスと、誰よりもジーザスを信じたがためにその憧れが失望へと変わるユダ。孤独を深めるジーザスは自らの死の覚悟を決め、またユダもジーザスの苦しみを終わらせるため銀貨と引き換えに司祭たちと取引をする…。


原作の名シーンをしっかり押さえつつ、破壊的であり普遍的である作品の面白さを画面いっぱいに表現している。原作者であるA・ウェーバーはこの演出をひどく嫌ったそうだが、映画版はゴールデングローブ賞にノミネートされるほど批評家たちからの賛辞を受けたそうだ。


ジーザスクライストはロックミュージカルであり、またジャズなど他の音楽とも親和性が高い。マーチングまであるのだから驚きだ。この映画は(原作者の気持ちは別として)いつまでも変わることのない問い掛けの連続であるジーザス・クライスト=スーパースターを見事に描き切った一本として認められるべきだろう。
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