享楽

孤独の暗殺者 スナイパーの享楽のレビュー・感想・評価

孤独の暗殺者 スナイパー(2015年製作の映画)
4.5
「愛する家族を守るため、射撃王はヒットマンとなる!」がキャッチコピーの今作。

脚本家のトーマス・ビデガンが、1965年の東京オリンピックでの射撃大会に感銘を受けたことがきっかけにこの映画の企画が生まれたとのこと。(HPより)

ストーリー
ヴァンサン(レダ・カテブ)は射撃のチャンピオン。愛する妻デルフィーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)と子どもに囲まれ生活していたが、…ヴァンサンの父のアルマンが倒れ込み引き取ることに…新築の家を建てる借金も重なり金銭トラブルをかかえ…妻との関係も悪化…そんなとき、ヴァンサンの射撃の腕を見込んだルノーから多額の報酬で暗殺依頼の仕事を受け、ヴァンサンはこれを受け入れる。やがて彼の父が死に至ったことから彼の人生も荒れ始め、暗殺の仕事を受け続け孤独なスナイパーとして暗躍するが、ある日ターゲットの狙撃に失敗し、…妻との約束の新築の家を焼かれてしまい、組織から抜ければ家族に危害が及ぶことを悟る、そして今度は彼がターゲットなるのであった…

といった具合の98分フランス映画。

冒頭のシーン。スキンヘッドの怪しげな男がアパートの一室を彷徨いている。彼は扉の前で銃を構え、扉を開けるや即目の前にいた一家を撃ち殺し颯爽と去る。このシークエンスは後にある伏線になっていることがわかる。

次からは先述のストーリー通りに進む。
プロットとしては
(一家の幸せな日々)→(ヴァンサンの射撃の腕の魅せ所)→(家族に新メンバーアルマンが加わることで主人公と妻の関係が悪化)→(射撃場でルノー(主人公の人生を転落させるきっかけとなる男)に出会う)→(妻とは徐々に離れて行く一方、ルノーとは親密になって行く)→(ヴァンサンが暗殺の仕事を始める)→(父アルマンの死)→(ヴァンサンが完全に妻を突き放す)→(大金を手にしたヴァンサン金で遊び始める)→ (第二の暗殺ミッションに失敗)→(ルノーに新築途中の家を焼かれる)→(第三のミッション 多少ミスりながらもなんとか成功)→(ヴァンサンが妻とよりを戻そうとするが失敗)→(射撃大会 ヴァンサン自分が狙われていることを自覚 娘に大会で獲得したメダルをあげてすぐさま逃げる 妻はここでヴァンサンの元へ戻ることを決意)→(妻がヴァンサンの元へ戻る ヴァンサンは自宅で襲ってきた輩を殺害してしまう)→(家族で逃走)

といったところだ。
家族への愛があり、妻を想い娘を想う良心的なヴァンサンが、父の死と暗殺の仕事をきっかけに不道徳へと陥る流れが今作の最大の見所ではないだろうか。

ヴァンサンの妻であるデルフィーヌが少々不寛容に感じる。ヴァンサンが父アルマンに対し優しく惜しみなく介護しているのとは対照に、彼女はヴァンサンの父アルマンに対し嫌々気を遣っているよう(食卓で下ネタを発せられたり、色目を使われたとは言え)。姉の裕福な生活に対して劣等感を感じ、それ克服する為に多額の借金をしてまで新築の家に住みたいようで、劇中のセリフを聞いていても少々傲慢さを感じてしまう。人間性が高いわけでもないが、なんとも面倒な女だと感じてしまう。
ただ父アルマンもかつて酒乱で女遊びが酷く、どうしようもない人物であり、妻の傲慢さと父のどうしようもなさに抑圧されるヴァンサン。
ルノーに暗殺任務を紹介されたときは、やらざるを得ないと感じたのかすぐに決断を下す。(あのシークエンスは好き)
ただ金を手に入れてからのヴァンサンは徐々に人間性が堕ちて行く。妻とのセックスを満たしたり、セックスが終わるやすぐ金を置いて颯爽と去ってしまったり、根本的な問題を解決しようとしないが、これは序盤のシーン射撃場でのルノーとの会話で彼が発した言葉「嫌なことは忘れていいことだけを覚えろ」というセリフから汲み取れる人間性を表していて、どうも彼は現実逃避癖があるような。

またヴァンサンが最初の暗殺を遂行し終えた後、帰路についている途中で家の前に着き、騒がしい家の前で共に車に乗っていたルノーに「何があったんだ?」と言われたのに対し「父が亡くなった」と事実確認をする前に分かっていたのは何故か。あのシーンの前後の文脈をよくチェックすると、ヴァンサンが父に対し何を決断したのかなども見て取れるので面白い。

劇中の人物、特にヴァンサンの人間性が変わりゆく姿に観応えがある。父が亡くなる前後 大金を手にする前後 の変化に注目して観ると楽しめる。