《家族という緊張感》
グザヴィエ・ドラン最新作。舞台劇である「まさに世界の終わり」を元にしている。自分の死を前にし、12年ぶりに故郷に帰った男の一日を描いた作品。グザヴィエ・ドラン作品をすべて見たわけではないが、共通するのはシンプルだがとても複雑な感情を描いているという部分なのではないか。ここまで情報量の多い作品だとは思わなかったが、とても繊細で丁寧に家族という複数人の心情を描いている作品だった。
ルイは自身の死を家族に伝えようと12年ぶりに家族の元へ戻る。そこには単純な愛だけでなく、相手への怒りや恨み、悲しみや羨望や、期待が含まれる。12年という空白が生んだ時間、そして人間の不器用な感情を今作では表情や台詞で魅せていく。台詞の奥にある感情を常に考えさせられるのだ。
そのため、緊張感が常にあり、人間模様が複雑に、そして劇中でもころころと変わっていく。元々普遍的な内容を「詳細」と言うべきか、「丁寧に」と言うべきか描く監督だと思っていたのだが、ほんとうに見事。どこか笑える部分もある。それがたったの数時間のことなのにとても饒舌に語られているのが面白い。
家族たちにとって一番の疑問はルイが何故戻ってきたのかという事。彼らはそれに怯えているようにも見える。そしてラストシーン、彼自身がその理由を話そうとした瞬間、その緊張感はピーク達する。とてもスリリングで、濃厚な作品だった。