竜平

たかが世界の終わりの竜平のレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
4.0
「もうすぐ自分は死ぬ」という事実を伝えるためにとある男が12年ぶりに家族の暮らす実家へと帰ってくる、というところから始まる話。グザヴィエ・ドランによるファミリードラマ。

驚くほどこのあらすじの流れのまま最後の最後までいくんだけど、それだけでは語り尽くせないドラマが詰まりに詰まってる、そんな一本。ほぼ会話劇で、わりと静かな作風。でファミリードラマと書いたけど、ほっこりなそれというわけではなく、様々な内情やそれぞれが抱え囚われている想いというのが渦巻く、なんともややこしい家族及び人間模様。ドラン作品で見たことある中だと『Mommy/マミー』もそうだったけど、衝突の中にこそ浮かび上がってくる「愛」みたいなものが描かれてる印象。せっかくの帰郷なのになんだか皆いがみ合ってばかりで、とにかくずっと微妙な距離感。主人公からしたら妹との幼い頃の記憶はほとんどなかったり、兄嫁とも初対面だったり、てか兄には悪態ばっかつかれたり、家族であるはずなのになんとも休まらない空間。もどかしく、歯痒く、またなかなか進まない展開にもいろんな意味でイライラしてしまう。けどそれこそがこの監督及び作品の狙いでもあるんだなと、見終えた後に理解。

自分本位な人物がたくさんいて、見えてくるのが本音の部分。自分以外の他人をどう思ってるかというのもそうだし、めちゃくちゃ些細で微妙な、でも誰にでもありそうな「確執」というやつ。思いやってはいるはずなんだけど、思いやりすぎて逆に気まづい、みたいなふうにもたまに見える。そんなこんなで見ていて記憶や心の中を掻き回されたり、くすぐられるような感覚に陥る人もいるんじゃないかな。共感なのか傍観してなのか、俺もしっかり気持ちを掻き回された次第。ギャスパー・ウリエルなど、演じる豪華キャストたちの表情や言葉一つ一つにも釘付けになってしまうはず。

途中、回想的な映像と共に急にポップな音楽を流してきたり、どことなく異彩を放つ内容でもあるように思う。いい具合に「してやられる」ラストも個人的には好みで、これは良きモヤモヤ。綺麗事だけでない、ハートフルでは済まさない人間関係や家族模様を見たいってな気分の人に薦めとく。
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