Inagaquilala

フィフティ・シェイズ・ダーカーのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.7
前作の「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」に比べて、物足りないものを感じた。ヒロインのアナスタシア役のダコタ・ジョンソンの妖艶な演技は確実に進化しているし、「売り」であるアナ(アナスタシア)とグレイの情事のシーンにしても頻繁に登場し、明らかに回数も増えている。ふたりに危険な視線を送る「敵役」も少なくとも3人は配置され、ストーリーにはミステリー的要素も加わった。

しかし、観賞後の印象としては、前作で感じたラビリンスのようなサスペンスフルな世界観はかなり薄まったように思えた。要するにわかりやすくなってしまったのだ。監督が女性写真家でアーティストでもあるサム・テイラー=ジョンソンから、男性のジェームズ・フォーリーに替わったことも影響しているかもしれないが、情事の場面にしても、頻度は増えたのだがあっさり次の別のシーンに移り、やや執拗さに欠ける演出だ。たびたびそのようなシーン転換があったので、おそらく意図的なものなのだろうが、自分としてはかなり消化不良な感じを覚えた。

脚本も、前作のケリー・マーセルから、原作者E・L・ジェームズの夫であるナイオール・レナードに替わり、前述のようにミステリー的要素がかなり盛り込まれている。とはいえ、次回作の「フィフティ・シェイズ・フリード」とともに撮影されたためか、その要素は本作では半分も回収されておらず、逆に次回作に繋がるような設定が仕掛けられている。そして、ご丁寧なことには、次回作の予告まで、最後のタイトルバックの途中に織り込まれている。このあたりも中途半端な感じを受ける要因かもしれない。

「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は原作も読んだのだが、こちらは未読なので、どのように小説とリンクしているのかは不明だが、ストーリー的にはかなりありきたりな方向に流れているように感じた。アナとグレイのいわば特殊な恋愛物語が、グレイ家のファミリーの物語に吸収されていく感じなのだ。前作に感じた迷宮感はまるでなく、わかりやすい家族の物語に向かっているように思える。極めてハリウッド的な流れにあるのかもしれない。前作が芸術家肌のイギリス人の監督だったことも考え合わせると、かなり自分としてはつまらない方向に向かっているような気がする。

とはいえ、ダコタ・ジョンソンはあいかわらず良い。ドン・ジョンソンとメラニー・グリフィスという役者を父と母に持つ彼女の演技は、妖艶さも加わり、その内に秘めたDNAを見事に発揮し始めているように思える。「胸騒ぎのシチリア」のセクシーな娘役も新たな面を見せた印象的な演技だったが、今回は彼女の出世作に戻り、ここが自分のフランチャイズだといわんばかりの大胆な演技を見せている。しかもそこに艶やかさも加わり、この女優さんは絶対に伸びていくだろうという堂々とした風格さえ感じるようになった。中途半端などこかの国の女優さんたちには、是非ともお手本にしてほしい。ということで、次回作「フィフティ・シェイズ・フリード」のアメリカでの公開は来年の2月らしいが、ダコタ・ジョンソンが出ている限りは、歓迎されざる方向に物語が向かっているとはいえ、きっと観てしまうだろうなと考えている。
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