常盤しのぶ

500ページの夢の束の常盤しのぶのレビュー・感想・評価

500ページの夢の束(2017年製作の映画)
4.0
オタクの行動力はすごいんやぞ、というお話。スター・トレックを知らないと楽しめないかな? と思ったが別にそんなことはなかった。むしろ『その作品について何も知らないパンピー』という立場からオタクの挙動を楽しめるので問題ない。

不測の事態が発生するとパニックになってしまうので、わからないこと・新たに発見したことをメモするのはとてもえらい。絶対に渡ってはいけないと言われていた大通りを横断するのはとても勇気が要ったと思う。オタク魂と真の目的があったからこそ渡れたのだろう。

おそらくだが、彼女にとって最大の難所はあの大通りの横断だったと思う。『やってはダメ』と言われていたことがあの大通りの横断だけだから。それに自ら反抗するのはとんでもないストレスだと思う。道中不測の事態が発生しても、言われた通りに『落ち着いて(Please Stand By)』行動できた。

道中で助けてくれたおばあちゃん好き。『孫ときっと話が合う』と言っていたが、素性の知らないオタク同士を対面させると下手すると戦争が発生するから気をつけようね……。

彼女は趣味でスター・トレックの脚本を書いている。しかも427ページも。創作したことがある人ならわかると思うが、たとえ数千字程度の短編であろうとも『自らの手で書き始めた物語を自らの手で完結させる』のはとんでもなく難しい。書けば書くほど粗が見つかり、自分が納得するまで延々と修正し続け、かと思えばアイデアが浮かばず先へ進めず、締切がなければそのまま完結せずにお蔵入り。そのような作品がこの世界にどれほど眠っているだろう。そんな中、彼女は自分が考えたスター・トレックの物語を427ページの脚本という形で見事に書ききったのだ。

パラマウントの『あなたには才能がある』という言葉は決して社交辞令などではない。物語を書き、期日までに提出する。これができるだけでも類稀な才能を持っていると言えるのだ。パラマウントも、これからの縁の有無に関わらず、物語を作る側の人間として、彼女の活躍を願っているに違いない。