だいたい、映画の原題を和訳すると、「どうしてこうなった?」っていうトンチンカンなものが多いのだけれど、今作は秀逸。
原題は奇跡っていう意味らしいのですが、「神のゆらぎ」って絶妙。素晴らしい。
「全能の神が存在しないから」っていう台詞が出てくるのですが、全ては神の思し召しであるけれども、こういうことが起きてしまうのは「神のゆらぎ」なんだ、という風に表現し得るから、絶妙だな、というわけです。
エホバの証人を信仰しているため輸血が出来ない恋人同士の2人、ダブル不倫中の2人、アル中の妻とギャンブル依存症の夫、ドラッグの運び屋、四つの物語がそれぞれ進行していく中で、
時系列がわかった瞬間にはっとさせられました。
バタフライエフェクトのような、知らないうちに自分の小さな行動が他人に与えていた影響に気付いて、あれはああいうことだったのか!と、沢山の伏線回収にすっきり。
淡々と話が進む不思議な雰囲気の映画で、普段なら主人公に感情移入しながら観るのですが、すごく遠くから眺めているような気持ちになりました。神の視点から観ているような感じとでも言えばいいのかしら。
メインストーリーとして扱われるエホバの証人と言えば、憲法の論点で必ず取り上げられる判例があるし、なんとなくどういう教えなのかは知っていました。外部の人間から見たら、輸血が出来ないなんで馬鹿げてると思うかもしれませんが、聖書に基づき、血を特別なものと考えている彼らにとっては輸血するくらいなら死をも受け入れよう、となるのでしょう。
この映画で白血病の治療を拒否した彼については、明確に意思表示をしているし、絶対的無輸血の特約付き手術を受けたにも関わらず輸血をされたわけでもないし、法律上の問題は発生していないけれど、同じ宗教を信仰している彼女としては戒律を破ってでも治療して欲しいと思うのもわかります。でも一方で、輸血を拒否することも、人格権や自己決定権の一つとして保護されるべき権利であるので、彼の行動もまた理解できました。
じわじわくる映画です。