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グランドフィナーレのan0nym0usのレビュー・感想・評価

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
4.3
原題『Youth』

『生き続けること』を真摯に描いた、素晴らしい作品。きっと観る人の年齢や性別や家族、送ってきた人生で、感じるものが変わるだろう、味わい深い作品。

望遠鏡を逆さにして覗き込む…
船出のような素敵な表現でした。

遠ざかる地に、想いを馳せる望郷。
振り返れば、遠く霞む…あの気持ち。

手を引かれていた私が、今は手を引く側であるということを、不意に自覚するような感覚。多くの人の『生きる』が連綿と続き、私たちは常に前に進んでいるということ。そして、後には戻れない。

言いようもない不安の中を、迷って、間違って、手探りで進む。でも、進み続けていくうちに気付く。迷ったことも間違ったことも、自分を形作る大事なもの。

空白の未来と、書き残してきた過去。

当たり前だけど失念する…
過去も自分だ。

過去が多ければ多いほど、どうしたって忘れるし、しがらみも増える…当然だよね。
そうやって、終わりまで進んでく。

私は今、どの辺りなんだろう?
まだまだ、先は長そうだ…かな。
ちょっと辟易しそうだけど(苦笑)

私はレイチェル・ワイズの演じたフレッドの娘レナに感情移入しちゃうから…男の人とは違う見え方だったかもしれない。それを考えていたら、なんか視界が広がった気がした…

私は…父の娘で、母の娘で、兄の妹で、友人の友達で、先輩の後輩で、後輩の先輩でetc…全部が私だけど、きっとどれひとつとして同じじゃない。

私って存在は無数にあって、唯一フィックスできるのは私が考えてる『私』だけ。

しかも、それは時の流れで移ろう。
今日の私は昨日の私とは違うし、明日の私は今日の私とは違っていく…老いも含めて、常に変化していく。

俯瞰して、ようやく全部が同じになる。
みんな、大きな流れの中を漂ってる。
その時、その場面で…
必要な役割を担いながら…

『繋がり』を、すごく考えさせてくれた。

映像作品としても美しくハイセンス。
『水』の使い方も効果的で、流動や循環を続けている感覚を呼び覚ます。
オススメできる高品質な作品。

良い作品に出逢うと嬉しい反面、怖くもなったりする…『一個しかない』なのか『まだ残ってる』なのか…の感覚に近いかな。
本当はまだまだたくさん残ってる。
でも、不安になってしまう。

ある意味、老いや死に感じる曖昧で緩慢な恐怖にも似てるかも…なんて(苦笑)

人生とは、自身と向き合う時間…
私には、そんな作品でした。
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