Ay

サウルの息子のAyのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
3.9
とても観たかった映画。
アウシュヴィッツ(強制収容所)では毎日虐殺が行われ死体の処理が追いつかない。
その為、囚人の中で選別されたゾンダーコマンド(特別部隊)がその処理の仕事に就かされる。

これ、映画「シンドラーのリスト」にもちょっとだけ描写がある。
何百人とユダヤ人を救ったシンドラーは、仕事のパートナーだったユダヤ人会計士がアウシュヴィッツに送られそうになった時、「君は特別待遇で扱うように伝える」と安心させる為に言うんだけど、会計士は「アウシュヴィッツでの特別待遇は地獄を指すと聞きます」って言うんだ。
その地獄がゾンダーコマンド=特別部隊の事だよね。

数ヶ月サイクルでゾンダーコマンドは入れ替わり、古い者はガス室へ送られ、新人のゾンダーコマンドの初仕事が前任のゾンダーコマンドの死体処理だったと言う。

ここで知っておきたいのが、ナチスはユダヤ人を絶滅させた後ホロコーストの事実を歴史から抹消する気だったと言うこと。
だから内部の秘密を知るゾンダーコマンドは数ヶ月で入れ替えられる。
決して外に情報が漏れないように。

遺体は全て焼かれるのだが、ゾンダーコマンドであるサウルは自分の息子の遺体だけはユダヤ教に則り埋葬するのだと心に誓う。
埋葬に必要な“ラビ(宗教的指導者)”をアウシュヴィッツの囚人の中から見つけるべくサウルは自身の命をもかけるのだが...

「その遺体は“息子”だ」とサウルが言い切るまでにストーリーは20分ほど進む。
つまり、果たしてその子どもはサウルの“息子”なのかという所も気になる。

この映画、宗教に詳しくなければ鑑賞後は解説を読んで欲しい。
読むと読まないとじゃラストのシーンの捉え方が大分変わるので是非。
ユダヤ教やキリスト教では正しい者は死後復活するといわれる。
火葬だと身体が消滅してしまう為サウルはなんとか息子を埋葬しようと死に物狂いになる。

そして、この映画少し驚いたのが、画面の比率。
普通は横長であるが、全編ほぼ正方形画面なので遂にウチのDVDプレーヤーもおかしくなったか..と思ってしまった。笑

映し方も特殊で、サウルの顔を近距離で追っかけ続ける。
サウルの顔に焦点がいくので、背景の酷い惨状はアウトフォーカスになる訳だけど、それが逆に地獄を想像させる。
これには、鑑賞者にゾンダーコマンドを体験させるという意図もあるよう。

ストーリーも演出も、非常に深い映画であるので、観て欲しい作品です。
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