和桜

サウルの息子の和桜のレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.0
アウシュビッツ収容所にて、同じ囚人でありながら囚人達をガス室に送り、死体の処理をさせられていたサウルというゾンダーコマンダーの物語。
ほとんどのシーンがサウルの背後からの映像であり、視界が限定されることで自分自身が見ているような錯覚を覚える。

「息子」に関して様々な解釈があるが、個人的には強制収容所を実際に経験したヴィクトール・フランクによる著書「夜と霧」での語りを想起させられた。
彼はこの本のなかで、人が人であるためには絶望的な状況の中で「希望」を持つことがいかに難しく大切でどうすればいいかを説くのだが、サウルの息子もまさにその希望だったのではないか。
つまり、息子をきちんと埋葬するということが彼にとっての生きる意味であり、自分が自分であるための希望だった。

しかし、これは同時に周りの収容所からの脱走を「希望」とするゾンダーコマンダー達とは一線を引くものでもある。
彼は何度か逃げるのを拒むような意志を示すが、それは彼にとって収容所から脱走し生き残ることは希望になり得なくなってしまったということを意味するのかもしれない。
虐殺に手を貸してしまったことや自分が生き残り続けていることへの罪悪感なのかはわからない。
ただ、彼が自らが生き延びることよりも「埋葬」という死者への礼節を優先し、しがみついている姿は見ていて本当に辛くなった。
何を思ったとかでなく、辛くなったという感想しか出てこない。

この映画で何か感じた人は、よければ「夜と霧」という本も読んでみて下さい。
自分も読み返します。
和桜

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