みおこし

サウルの息子のみおこしのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
3.8
一昨年歴代のアカデミー作品賞を制覇したので、これから外国語作品賞、主演男優・女優賞獲得作品をコンプリートすることにしました!今回は2015年度受賞、ハンガリーによる作品。

"ゾンダーコマンド"と呼ばれる、ナチス=ドイツによって組織された強制収容所での労働部隊。ガス室の遺体処理の労働を課せられているサウルは、ある日幼い少年の遺体が自分の息子だと思い、ユダヤ式の葬儀を施すべく奔走する...。

胸に突き刺さる重いテーマの作品でした。自分の運命も悟りながら、同志の遺体を処理し続けなければならない過酷な状況。遺体を「部品」と呼んで、ゴミ以下の扱いをするナチス隊員たち。強制収容所の現実を描いた作品は数多くあれど、本作はかなりの異色作でした。
直接的には凄惨な様子を映さず、ひたすらサウルの表情、背中を中心に映し続けるのみ。しかし、遺体の山や残虐な殺害の場面は、フォーカスされているサウルの後ろにぼんやりと映り込んでいます。この絶妙なカメラワークによって、むしろ観客の胸に訴えてくるものは倍増。すごい技術...!

キャッチコピーに、"人間の尊厳"とありますがまさに本作のテーマを言い当てる名コピー。あの少年がサウルの実の息子なのか、それは明かされないまま話は進みますが、それでもサウルは正しく彼を弔うべく葛藤します。もはやそれだけが、この非人道的な空間でできる、唯一の正義だったのかなと...。
眉間にしわを寄せたまま、多くを語らない男として登場するサウル。もはや彼にはほぼ感情など無く、生きる希望も無かったはず。しかし、葬儀のために走り回るうちに、人間らしい使命感に駆られたのか、彼の顔に「生気」が取り戻されていくような気がしました。
唯一彼が微笑むシーンがあるのですが、あの瞬間こそ、全てが失われた過酷な環境の中で、ふと人間らしさを思い出させてくれる貴重なシーン。

斬新な手法の中に、決して私たちが忘れてはいけない惨劇、そしてどんな状況でも、人として忘れてはならない大切なことが全て詰まっていました。ラストのあのワンカット、まさに"命のバトン"は今こうして命を与えられている私たちが繋いでいかなければならないのだな、と痛感させられる印象的な場面。
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