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サウルの息子のGubGubのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
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ホロコーストを扱った映画は幾つもあるが観るたびに知らなかった凄惨な一面が現れてくる。この歴史的大虐殺が映画の1つや2つでは語り尽くせぬほどの惨劇を生んだから。


収容所では処刑を一時的に免れるかわりに強制的に働かされたユダヤ系の人々がいた。彼らはゾイダーコマンドと呼ばれ主にガス室の清掃、つまり同胞たちの死体を処理を担う。
サウルは遺体から見つけた少年を息子だと思い込み、ラビ(ユダヤ教の聖職者)を探しだして祈りを捧げ埋葬することを決める。収容所ではゾイダーコマンドたちが反乱を起こそうと綿密な作戦を実行に移していた。

生き残ること。
彼らにとってそれが唯一の希望だった。
死者を悼むことに執着するサウルは誰からも理解されない。
ただ、毎日のように何百の遺体を処理していく中、生への執着だけで正気でいられるものなのか?
感覚を殺して麻痺させるほかない。
サウルはそれがうまくいかなかった。

息子を弔うことは残された人間らしさを守ること、自分のままで生きて、死ねることだったのではないか。


この映画に所謂美しいカットは殆どない。
多くのカットで人物とカメラの距離が近く、背景にピントが合うことも少ない。

それでいいと思う。

映像においてカット構成は場面説明だけではなく、独自の感情をもつ。この圧迫された極限の環境で、揺れ動くほどの感情はない。描写される彼らの中には、ただ一つの残された意志が働いているだけだ。
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