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ロブスターのGreenTのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
3.5
この映画は、車を運転している中年女性が突然車を止め、のんびりと草を食んでいたロバをピストルで撃ち殺すシーンから始まります。

このシーンがとてもリアルで、どうやって撮影したのかをググったのですが、うまく記事が見つからず、出てきたのは1本だけでした。

その記事は、映画の撮影が行われたアイルランドのSneemという街で、エキストラをやった地元の人、Dr. Maloneという人のインタビュー記事です。

https://www.irishexaminer.com/lifestyle/features/the-locals-in-sneem-talk-about-the-filming-of-the-lobster-movie-in-their-region-357086.html

この中で、ロバの射殺シーンに関して、2段落だけ記述がありました。

“Dr Malone recalled one early-morning scene when a donkey had to be ‘shot’ outside the hotel and a vet was brought in to anaesthetise it briefly for the scene.

But a local landowner, who was oblivious to the steps being taken to protect the animal, approached the crew and shouted: “There’ll be no donkey shot on this farm.”

「ホテルの外でロバが『撃たれる』早朝のシーンがあり、ロバに麻酔をかけるために獣医が連れてこられたことをMr. Maloneは思い出しました。

しかし、ローカルの地主は、動物保護のための処置を取ったことを知らずに、映画のクルーに『この農場でロバを撃つのはダメだ!』と怒鳴りました」

これ以外に何も記述がないので、あのシーンが実際どうやって撮影されたのかはわかりませんが、ロバが実際に撃たれていないことは確かです。

この記事では、ロバに麻酔をかけたことを、「動物保護のための処置を取った」としていますが、私は、撮影のために麻酔をかけることも、動物に対して残酷な行為ではないかなと思いました。

また、別のシーンでは、蹴り殺された犬の死体が出てくるのですが、これもすごくリアルで、しかし、犬を映画で殺したら相当な非難を受けるだろうから、それはないとは思ったのですが、とてもリアルで・・・・。ロバに麻酔をかけた話を知った後は、多分、本物の犬に麻酔をかけて撮影したのではないかと想像しました。

昔、日本には、「なめ猫」というキャラクター商品があって、子供の頃「可愛い!」と人気があったのですが、子供たちがそれを楽しんでいる裏で、写真撮影に使われた子猫たちが死んでいたというのを聞いてから、私は人間のエンターテイメントのために動物を使うのは極力やめたいと思っています。

しかし同時に、このロバのシーンはブリリアントだなと思うのです。この中年女性は自分の夫に、「お前といるくらいなら、ロバになった方がいい!」と言われて離婚され、夫は本当にロバになり、しかもロバとしてパートナーを見つけ幸せに暮らしていたんじゃないかな〜と思いました。現場にはロバが二匹いて、一匹が撃ち殺されて倒れると、もう一匹が倒れたロバのところに近寄って行きます。最初に女性が現れた時、ロバたちが女性を見つめている仕草とか独特の「間」とか、一匹が撃ち殺された後にもう一匹が近寄っていく様子とかがコミカルでめちゃくちゃ可笑しいのです。

この映画では、シングルの人は45日以内にパートナーを見つけなければ動物にされ、森に捨てられます。だから、動物に変えられるのを覚悟で「お前と別れたい」って言われたらショックだろうな〜って考えたのですが、このストーリーに出てくるカップルがみんな「ロバにされた方がマシ」っていうカップルばかりなんです。

映画の中盤で、レイチェル・ワイズとコリン・フェレルが本当に恋に落ちるのですが、この二人の愛情表現というのが、男がウサギを捕まえて、食べ物として女に捧げる、というもの。

映画の前半では、恋愛が形ばかりで心が伴わないものだったのに対して、森で野生動物のように暮らしている女は、ダイヤモンドとか花とかに男の愛情を感じるのではなくて、血だらけでぐちゃぐちゃのウサギを枕元に置かれて「愛されている」と感じるっていうのが、面白いなあと思わされます。

このウサギもすごいリアルで、本当に殺したのかわかりませんが、もしそうならこの撮影の後どうしたんだろう?捨てたのかな?とか色々考えると、せっかくいいシーンなのにやっぱりちょっと暗い気持ちになるし、ウサギが罠にかかってネットで吊るされるシーンは本物なので、殺されはしないけど可哀想でした。

森に住む人間たちは、45日間でパートナーが見つからなかった人たちで、動物に変えられる前に逃げ出してきたのですが、動物に変えられてしまった人たちも森に放たれているので、こんなアイルランドの森に住んでるわけない孔雀とか、ラクダみたいな、なんだかわからない動物が人間たちのバックグランドに意味なくいるところがまた可笑しいんです。

こんな風に背景として歩いているだけなら害はないように思えますが、この動物たちは撮影現場に連れて来られる時、どんな風に連れて来られたんだろう?小さいオリに押し込められて、ガタガタ揺れる車で連れて来られたのだとしたら、やはり残酷なのではないかと懸念してしまいます。

数ヶ月前にニュースで聞いたのですが、観光地でナマケモノという動物を抱っこして写真を撮ることができるというビジネスがあり、1日に何回も抱っこされたナマケモノが過労で死んでしまったという話を聞いたことがあります。映画撮影というのは長時間に及び、人間でも辛いことがあるらしいから、動物にはかなりのストレスなんじゃないかと思うし、役者になりたいわけでもないんだから、付き合わせるのは酷なんじゃないでしょうか?

動物を使っていることを大々的に宣伝している映画だったら敢えて観ないという選択もあったのですが、これは予想外でした。このお話はすごい独創的で、こういう映画製作者側のイマジネーションを具現化する手段の一つが動物を使うことだとしたら、それを奪いたくはないという、映画ファンとしての気持ちもあります。私はブラック・ユーモアも好きだし、人間同士だったら辛辣すぎるくらいのギャグでも笑えるのですが、動物は人間と違って権利もないし、命も軽く見られているので何十倍も可哀想に思えてしまいます。

そんなわけで、とても良い映画だと思ったのですが、歯切れの悪い感想文になってしまいました。
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