アキラナウェイ

人生タクシーのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

人生タクシー(2015年製作の映画)
3.7
ジャファール・パナヒ جعفر پناهی
職業:映画監督

監督作「チャドルと生きる」(2000)「オフサイド・ガールズ」(2006)が、イランの現体制を批判する内容であるとして、イラン国内では公開禁止となる。大統領選挙にて改革派の候補者を支持したとして、2010年3月1日に自宅で拘束。その為、同年開催の第63回カンヌ国際映画祭の審査員を欠席。政府から2010年から20年間にわたる"映画監督禁止令"が下されているという。

イラン…。やべーな。

堂々と撮影は出来ないけれど、タクシー運転手としてダッシュボードに置いたカメラでイランの日常を切り取って、世界に発信する意欲作。

パナヒ…。負けちゃいねーな。

乗合タクシーに次々乗り込むテヘラン市民。

死刑制度について議論する男と女教師。
バイク事故に遭った瀕死の男と泣き叫ぶ妻。
金魚鉢を手にした老婆達。
個性豊かなキャラクター達が、長回しのカメラの前で繰り広げるドラマ。

ドキュメンタリー?モキュメンタリー?

虚実のはっきりしない出来事に、ただただ惹き込まれていく。

バイク事故に遭った瀕死の男は、妻に遺産を残そうとカメラで遺言を残してくれと懇願する。そうしないと、妻は家も相続出来ないと言う。

違法な海賊版映画ソフトを売る男や、映画監督志望の大学生らを観ていると、イランという国が如何に海外映画に規制を掛けているかが透けて見える。

——俗悪なリアリズムの罪ってどういうこと?
現実を撮りなさいと言っておいて、本当の現実や暗くてイヤな現実は見せちゃダメって
私には違いが全然わからない。
本当とか本当じゃないって何?——

パナヒ監督の姪っ子の言葉の切れ味が抜群である。

この国で起きている"本当の事"を見せたり、語ったりしてはダメ。そのルールを破れば逮捕され、その権利を奪われる。本作には、政府から停職処分を下された女性弁護士の姿も—— 。

タクシーのダッシュボード上のカメラで映し出した映像は、あまりに自然で受け流してしまいそうになるけれど、「ちょっ、待って。よく考えて」。

それって、かなりおかしくない?

派手さはないが、考えさせられるテーマを巧妙に織り交ぜた、監督が真に伝えたいメッセージには震える。

金魚鉢の水が溢れるとギャーギャー騒いでいた老婆達が1番謎だし、シュール。

おまけにオチまで俊逸。
この作品、かなりヤバい。