革芸之介

人生タクシーの革芸之介のレビュー・感想・評価

人生タクシー(2015年製作の映画)
4.6
ジャファル・パナヒの生き様はカッコいい。世界中からリスペクトされるイラン映画界の巨匠ながら、反体制的な言動のため逮捕されたり、イラン政府の監視下におかれ国外への出国を許されない立場にあり本作もベルリン映画祭金熊賞を受賞しながら監督本人は受賞式には出席できなかった。

本作「タクシー」にも根底には反政府的なメッセージ性は存在するが、かなり喜劇的な要素が強くユーモアに溢れているのだ。

パナヒ監督自身がタクシー運転手に扮して、乗客達との交流が描かれる。何となく疑似ドキュメンタリー風味の映画かなぁと想像していたのだが、本作は紛れもない真の「映画」であり、明白な「フィクション」であり、映画で表現できる方法をさらに進化させた傑作である。

乗客達の多少大袈裟な「演技」が面白い。みんな「演技」を楽しんでいる。叫ぶ乗客、怒る乗客、様々で、海賊版DVDの売人である乗客は「あれ!パナヒさんですよね?」と問いかけ、その時のパナヒ監督が笑いをこらえてる様子とかがお茶目です。

主にダッシュボードに備え付けられたカメラで車内の様子が撮影されているので隠しカメラの映像のような生々しさが表現されているが、撮影も編集もかなり計算されつくされた技術的にもレベルの高い作品であり、後部座席の様子はおそらく助手席の上部からのカメラで撮影されているし、ドライバーの監督と助手席の乗客との会話のアップショットの切り返しなど、車内という閉塞的な空間が多彩な撮影方法で面白く撮られている。

このようにキャメラは車内だけに設置されているが、本作の本当に凄いところは、車外、外の風景である。キャメラはフロントガラス越しに車の前方の外の風景を映し出す。道路がありそこを渡る人々がいて、すれ違う車があり、テヘランの街の風景を我々は見ることができる。車が停止してフロントガラス越しに見える街の様子の緊張感とサスペンス性はラストのシーンで最高潮に達する。

さらに乗客達の数名は、人と会うためや用事のため、いったんタクシーから降りる。ここでもキャメラは外に向きを変え、降りた乗客の外での様子を映す。彼等は何を喋っているのか?どんな用事があるのか、車内から見えるその様子に、ここでも強烈なサスペンス性が生み出される。

本来ならば「車外」「外の風景」を「オフスクリーン」として処理してもよかったのだが、「車内」=「見える風景」に追加して「車外」=「見えない風景」=「オフスクリーン(画面外)」をあえて映すことにより、物語的にも映像表現的にも深みと奥行きとサスペンス性が与えられ、本作がより面白い作品になったのである。

ジャファル・パナヒ、政治的にも革新的だが、やはり映画人としても革新的である。