ベルサイユ製麺

人生タクシーのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

人生タクシー(2015年製作の映画)
3.5
巨匠ジャファル・パナヒ監督作、恥ずかしながら初鑑賞です!
なので、このエクスペリメンタルな作風が通常運転なのか否かは分かりかねます。

タクシーの運転手に扮したパタヒ監督が車載カメラで捉えた、イランの市井の営み、人々の飾りのない言葉。…というNHKの『ドキュメント72時間』みたいなスタイルを借りた…劇、 映画という事でよろしいでしょうか?
公には今作がドキュなのかモキュなのかは明らかにされていないようです。
ムムっと…なかなか見方の難しい映画に思えました。頭の中でメタとベタがぐるぐる追いかけっこしております。一応ドキュメントである可能性も考慮して観て欲しいということなら、“イランは波瀾万丈で物騒”。勿論モキュメンタリー!という事なら“イランで物言うのは大変だ”と感じました。何れにせよイランの普通は我々からすると結構ハード。宗教的理想と現実社会がうまく折り合わず軋みをあげていて、人々の常識や倫理観にも乖離が見られます。暮らしは基本大変そうだけど、お金ばら撒いてる様な人もいる。兎に角いろんなベクトルに引き裂かれてて、(当たり前だけど)イランで暮らす人々のイメージは一様では無いです。
前半の、タクシーが乗合方式である事を生かした、違った立場の人達のディスカッションがとても興味深くて、いろんな組み合わせを期待したのですが、中盤以降は搭乗する姪っ子ちゃんがスポークスマン的に立ち回ってくれるので、映画の方向性がフィックスされる印象です。ちょっと残念。そもそも運転手が監督だとあっさりバレる展開はアレで良いのだろうか?それで本音は引き出せるの⁇
個人的に違和感を感じてしまったのは、乗客達のそれぞれの雑多さに比較して、監督自身が黙って見つめるだけだったり、困惑して見せたりの様が如何にも“自分こそがノーマル!価値観の中心軸である!”という風に見えてしまった事です。個人的にドキュメントを観ていて一番心踊るのが“作り手の仮定を覆される瞬間”だったりするので、ちょっと平板な構成に思えてしまった。作り手がお利口に見える作品、ちょっと苦手なんだな。
…などとグダグダ書き連ねたのは概ね好みの問題でございます。イランで映画一本完成させるまでの苦労を考えれば全ては些細な事に違いありません。何はともあれ、このような素晴らしい作品に出会えた事には感謝しかないのです。メルスィ☺︎(←軽い)

…今日もテヘランの街では多くの人がタクシーを利用しています。そこでは一体どんな会話が交わされているのでしょうか…。(ナレーション:吹石一恵)

♪大人になってゆく〜ほど〜
涙がよく出てしまうのは〜
1人でルルル ルルルル〜♪
〈人生タクシー 脳内エンディングテーマ曲
松崎ナオ『川べりの家』〉