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母の残像のcoroのレビュー・感想・評価

母の残像(2015年製作の映画)
3.8
見知らぬ人の一瞬の視線。瑣末な記憶の断片が最期の数秒一気に甦ってきた。数秒はすでに数秒ではなく、数分とも思えた。時は止まった。終わりを悟った瞬間、彼女の脳裏をよぎったものは何だったんだろう。

戦場写真家である妻(母)イザベルが急逝してから3年、彼女を偲ぶ写真展が開催されることになる。残された家族は写真の整理をしながら時空をたゆたいイザベル在りし日々の思い出にふける。

トリミングなど不必要な部分を切り取ることもなく何の加工もされていないスナップ写真。一見すると人生そのものを写し撮ったかのように見えるイザベルの写真も、視点を変えてみるとどこか時間が止まったような空虚な光景に見えたりもする。そんな彼女の遺伝子が引き継がれていることを予感させる無音のオープニングクレジット。次男の出産直後に見せる長男の不確かなまなざし。亡き母のことを思いながら詩を綴る繊細な次男。育児放棄をし自身の波の底深く沈んでいく母親。そして取るに足りない思い出を唯一忘れ去ることのできる子煩悩な父親。誰もが疎まれているわけではないけれど必要とされてもいないと思っている愛すべき家族。濃密な母(妻)の残像を密かに伝えてくれる精緻細密な台詞が超魅力的。

パーティの夜、少女の流したものが月明かりを浴びてキラキラと輝き、導火線のように彼の元へと届くシーンは映画史に残る名シーンだと思う。そして、そこから続く夜道のフォルムがまた詩的で素敵☆
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