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オーバー・フェンスのslowのレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
4.1
世界は殺風景だった。少なくとも、男はそう感じていた。鳥の求愛を完コピする女を目撃するまでは。

無職で職業訓練校に通っている男、白岩。こういうの浅野忠信が抜群に巧そうだけど、オダギリジョーも嵌る年になったんだね。ちょっと顔良過ぎるけど、枯れ具合は良い。
愛を渇望するキャバクラ嬢、聡。演じた蒼井優の浮く程の振り切り方。そして、空気を変えられる運動神経は流石。

やる気のない下世話な男達から抽出したエグ味と旨味。間延びを演出する絶妙な間。そして、ベテランの域に入った役者をみずみずしく撮ってしまえる監督の手腕は素晴らしい。笑い合い見つめ合うことを、今更ここまで温かく小っ恥ずかしく表現できるとは。

自分にとっての愛情表現は相手にとってみれば全く別ものである可能性もある。そのズレに思い当たり、思い知り、人は誰かとの相乗りを繰り返しながら、ゆっくりゆっくり歪みを克服して行く。背負うことを恐れていた背中に温もりと羽を感じ、やがて、思い出したように飛び立つ日がやって来た時、人はあんな顔で空を見上げるんだろう。
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