サラリーマン岡崎

オーバー・フェンスのサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
4.2
『きみの鳥はうたえる』を観て、
同じ佐藤泰志原作で函館舞台なので観てみた。

正直なんてことない話、
でも、平凡な話の中で、すごく幻想的な表現がいくつも散りばめられてる。

特に蒼井優が舞う演技は素晴らしい。
あのうねり方、普通に何も加工はしてないと思うが、滑らかでいきなり幻想的になる。
その瞬間羽が空を舞うのだ。

それだけでなく、オダギリジョーが蒼井優をソフトボール大会に誘うシーンは普通の日常を切り取ってるだけだが、
とてもエロティックに感じる。

傷ついた者同士だからこそ、
幻想的な瞬間をつくれるかもしれない。

そして、オダギリジョーはこれまたとてつもなく平凡だ。
そこらへんにいそうだし、難を抱えてる職業訓練学校の生徒の中では一番まともに見える。
彼が職業訓練学校に通うきっかけになった出来事も正直普通の人生の中で起きたことだ。
だからこそ、平凡に生きる俺たちの人生にもその悲劇は起きるかもしれないと感じる。
おじさんを笑ってる若者も、いつかそうなるかもしれない。

でも、そうやって堕ちに堕ちた後でも、
こんなに素敵なことが起きるかもしれない。
むしろ、堕ちたからこそ、そのありがたみもわかるし、他人の気持ちもわかる、
オダギリジョーが言うみたいに「失うものがない」からこそ、なんでも飛び出せる、
ある意味自由だと感じる。
今安定を生きる俺たちの方が窮屈に感じられるし、彼らの生き方に羨ましさを感じてる部分はある。

佐藤泰志が書いた函館の物語、
『そこのみにて光り輝く』窮屈な人たちのの窮屈な日常を描き、
『きみの鳥はうたえる』は自由に見える人たちの窮屈さを描き、
『オーバー・フェンス』では窮屈に見える人たちの自由を描いている。
函館は窮屈な街でもあり、自由な街でもあるのか。
函館はとても面白い街なんだな。