熊太郎

オーバー・フェンスの熊太郎のレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
4.0
その目!
その目で見られると、じぶんがゴミになった気がすんだけど!!
ひとのこと見下さないでよ!!!!


と実家の離れに連れ込んだ男とセックスした直後に激昂する聡(蒼井優)。

聡はヒトとの遠近感がバグっている。
メイクも変だ。
声を聞くと、水商売用につくられた外向けの誇張でキィキィ鳴っている。

聡は誰にも見られないでいられる自分一人の部屋をもつ。そこで身体を隈なく洗う。裸身の背後には自分について来たおとこがいた。で、そのままセックス。おとこを容れる。至近距離で人は残忍になれるものではない。恐怖と自衛から他人に密着していくということもあるだろう。

セックスによって人は自分の醜さを忘れてしまうこともできるけれど、恋情は自分の醜さを突きつけてくる。
聡は感情のプールを制御できない。からだをひらいた相手にひっくりかえった声で堰を切ったように叫ぶ。その過剰さをメンヘラとして看過するか、ヤリマンとして手籠めにするか。



自他の心の沼があちこちに見える。
深みにたいして、警戒心と無関心を同時に向けることをおぼえるのが「中年」なのかもしれない。なら、「手遅れ」とはなんだろう?と思う。いつから、それは「手遅れ」になってしまったのか。


オダギリジョー演じる白岩は、おんなの沼に深入りして泥にまみれていく男なんだろうけれど、職業訓練校では慎重に距離を測って、おとこの甘えや壊れを寄せつけない。奇妙なバランス感覚だ。

この映画に出てくる男子は皆、ぬるま湯の形成に多かれ少なかれ腐心しているように見える。
そうして、自身の「コミュ障」を隠せば隠すほど、他の歪さ醜さは拡大されるのかもしれない。
かの青年が退いたあとの喫煙所は、俺じゃなくてよかった……というかれらの内心が重く充満しているようだった。

そういえば、飲み会での気まずさは『苦役列車』にもあったな。



まとまりのないグダクダ・アンサンブル、傑作を生み出してやるわい!な気負いのなさが『そこのみにて光輝く』よりも変にリアルで好かった。
だけどもっとうんざりするほど長い上映時間で見たい気もする。深入りしない術をおぼえたのに、どこへも出られなくなってしまった山椒魚み中年たちのどんづまり映画が長くゆるやかに見たい。


……ぼんやりしたレビュー(ぬるゆ)
熊太郎

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