評判は耳にしていたものの、「ありがちな戦争映画では？」という先入観からずっと視聴を見送ってきた作品。観て後悔。もっと早くに観ればよかった。
『対米戦争中の広島』といういかにも戦争の凄惨さを描きやすい舞台設定でありながら、通り一遍な悲劇を描くわけでも、強い反戦思想を込めるでもなく、淡々と当時の普通の人々の日常と、幸福を、あくまでも中立的に描いている。
良い意味で想像を裏切ってきた作品。
『小姑に嫌味を言われてもそうと気づきもしない鈍い主人公』というキャラクター設定がまた妙。
当時の日本人女性に対するテンプレートなイメージから距離を置き、どこか現代人に近い感覚を持った主人公像が出来上がっている。
すでに戦争というものが現実の出来事ではなく歴史上の物語に変わりつつある現代で、主人公像をより現代人が自己投影しやすい形に変化させたことは大きな試みのように感じる。
大多数の戦争映画とは一線を画し、強烈なメッセージ性やテーマを感じる作品ではないが、逆に、鑑賞者一人ひとりがその時々で自由にテーマを定め、メッセージを受け取ることができるように思う。
おそらく、二度目、三度目と鑑賞したときにはまた違った印象を受けられるはず。
時間を置いてぜひまた観たい作品。
