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この世界の片隅にのtakatoのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.4
 明るい作品である。戦時中の話と聞けば、とにかく暗い悲劇を連想せざるをえない。しかし、本作は実に明るく楽しい。世界の片隅のちっぽけな場所、人々の物語なのだが、実に丁寧に巧みに描かれているからそれらが愛おしくてたまらなくなる。

 たくさんネタバレしない程度で本作がいかに明るいか一例を挙げると、憲兵に主役のすずさんがいびられるという展開がある。当然、他の作品だったら辛く嫌な場面として描かれるだろう。しかし、本作では憲兵が帰った後にこんなとぼけた娘がスパイとは、トンデモナイ想像力だわい!とみんなで大笑いする場面なのだ。貧しい食事の場面も、様々に工夫を凝らして実に愉快なのだ。

 勿論、戦時中だから辛い展開もある。しかし、本作ではそれでも生きていくという希望に繋がっていき、ラストには小さな救いへと結実する。劇的に盛り上げるよりしっとりと薄味でここまで見事な味わいに仕上げる技量は半端ではない。
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