Kanta

この世界の片隅にのKantaのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.6
「群像劇は残酷になり得ない」という事実を用いて、戦争の悲惨さを伝える作品。

世界観の元動くキャラクターというのは、アニメーションの特徴であると思う。通常ありえない事(言動など物語を左右する大きな事から、表情仕草など小さな事まで)が許容されるのは、世界観が先行するからだとする。

群像劇は一定の世界観のもと、それを疑わぬ人々の物語だ。主人公がそこに抗うならば、もっと大それた物語になっていく。
だから群像劇は、残酷になり得ない。残酷さをも受け入れる人々の物語だからだ。

本作品の世界観は実際の戦争史に基づく。そして本作品は、立派な群像劇。なぜなら本作品の主人公の表示仕草はとてもアニメ的で、細かい日常描写が人々の"当たり前"をあぶり出すように描かれているからだ。

我々はこの作品の世界観(=戦争史)が残酷なものだと知っている。けれどこれは群像劇だから、人々はこの残酷さに生きている。当たり前に悲しみ、当たり前に憤り、当たり前に暮らす。
それを見る僕らは、何を思うのか…を問うている作品だと思う。

時折挟まれるアニメーションならではの演出が美しく、劇的。劇的な演出が、観客を作品へと没入させつつ、世界観を達観させるような感覚がありとても新鮮だった。
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