ネネ

この世界の片隅にのネネのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.2
船頭さんの操る木舟に揺られているのは、まだ小さな頃のすずさんだ。
すずさんがこの先の未来で出会う、兄嫁の娘晴美ちゃんと同じぐらいの年齢だろうか。
彼女は今、兄の代わりに、中島本町へと海苔を売りに行くところ。
小さなすずさんの背中には、海苔の箱はとても大きい。
よっこらしょっと持ち上げる仕草に、心がほっこりした。

すずさんの成長はしっかり、じっくり描かれている。
これは戦争映画ではないのだと、そこで初めて気づきました。
あの時代に生きていた人々の日常を描き、その日常の中に戦争も存在していた――、当然の事実なのに、不思議に思えるのはなぜなのでしょう。
日常の延長線上に戦争があって、その過去の延長線上に私の生きる今がある。
映画館を出たあとから、ずっとそのことが頭から離れませんでした。

なんとなく、戦争の前と後とで、昭和という時代をわけて考えてしまっていたけれど。
前も後も関係なく、たとえば昭和20年8月6日のあの日も、誰かが今の私たちと同じようなことで笑っていたり、ふざけていた。そんなシーンを見て、私はうれしく感じました。
戦争はいけないことだけれど、あの日々の日本人を全部ひとまとめにして、間違いだった、悪かったなんて、そんなことは言えません。

ところで色々考えた結果、最後に辿り着いたのは「周作さん……すき……」でした。
すずさんを家から送り出したあと、鍵を閉めて電気を消したあの瞬間……。
あの瞬間の、絡まってどうにもならない恋情の気配に、思い返すたびクラクラします。
これから先も忘れられない、フェチズムを刺激されるシーンとなりました。
ネネ

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