なっこ

この世界の片隅にのなっこのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
3.1
戦争から遠く離れているようでいて、
豊かな海にも、田舎の田畑にまでも、
確かにそこいら中に戦争という暴力の陰はあったのだ。
人々のどこか遠くにあったはずの戦争、それに身体も心も蝕まれていく、ゆっくりと日常は奪われていく、失ってゆく、それでもなお生きる。生き続ける、生きられなかったものの分まで。

ヒロインも含めて、一人ひとりのキャラクターがとても上手く描かれていて、その背景を思うときに、
戦争という不条理を思わずにはいられない。

一人ひとりの生きたかった生は、どんなものだったのか。それがその時代、戦争という状況がどのように彼女/彼たちから奪っていったのか。この物語の中で掘り下げてみたい点は、沢山ある。

昭和という時代は、戦争抜きには考えられない。身近にいる誰かがもう語ろうとしないその時代を、ヒロインと一緒になって追体験する。そうすると、呉というまちが、広島という都市がとても身近に感じてくる。
どこの都市もまちも、こういう歴史を抱えている。戦争はたしかに、そこにあったのだ、戦地にいかなくても、雨のように焼夷弾が降って焼かれたまちが、そこいら中に。
小さな生き物たちも暮らしていたその土地に。
それをどれだけ破壊していったのか、その悲しみの記憶を追体験する。

健気に生きる人々からそれらを簡単に奪ってよいはずなどない。そういう気持ちを、けして忘れてはいけない。そういう悲しみをこらえて、次の時代を明るくしようと生き抜いた人たちを、忘れてよいはずはない。

戦争をテーマにした映画を見ることは、私は苦手だけれど、この作品は老若男女誰にでも一度は見て欲しいと思える、そういう作品だった。
なっこ

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