プペ

この世界の片隅にのプペのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.0
主人公のすずは、爆撃を受けるその只中に立ち、その″非現実的な現実″の光景に対して、「ここに絵の具があれば、絵が描けるのに」と思う。
勿論、それが夢想であり、現実逃避であることを本人は分かっている。
でも、そうでも思わなければ、この目の前の現実を踏まえて次の瞬間を生きていない。
それがこの「時代」を生きた人々が、共通して持った″生きる術″だったのではないか。


初めてこの映画を観てから何カ月経っただろう。
その間、何度も感想をまとめようとした。
けれど、映画を振り返る度に、主題歌と主人公の声が言霊のように頭の中を巡り、繰り返し繰り返し感情を揺さぶっている。
今もなお。


悲しくて、悲しくて、とてもやりきれない。

でも、涙が溢れる理由は、決して悲しいからではない。
悲しみを越え、苦しみを越え、痛みを越え、怒りを越え、虚しさと絶望を越えて、その先に何があったのか。
悲しみが消えて無くなるわけでもなく、それを補うだけの幸福があったわけでもない。
それでもだ。
それでも命を繋ぎ、ただ生きていく。
その″普通″の人間の、愛おしいしぶとさに涙が溢れる。

″すずさん″の人生が特別なわけではない。
彼女と同じように、何千万人もの普通の人たちが、泣き、笑い、怒り、「戦争」という生活を生き抜いてくれたからこそ、私たちのすべてと、この映画は存在している。



…やはりうまくまとまらない。
ただ、全てが凄いのだ。

取り敢えず映画を2回鑑賞し、原作漫画を読みふけったが、この先も私は人生を通して″すずさん″と共に泣き笑うだろう。
そして、この世界の片隅で命を繋いでいくだろう。
プペ

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