鹿江光

この世界の片隅にの鹿江光のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
2.8
≪58点≫:過去が現在として身に迫る。
牧歌的で愛らしいすずさんの暮らしが描かれる前半。ただ我々は後に訪れる“未来”を知っている。だから余計に後半への落差が心に重く圧し掛かる。感動よりも喪失が勝るが、彼女たちの生きる姿勢を観ることで大きく勇気づけられる。
前線がクローズアップされる中で、その裏には普通に生きていた人たちの日々の戦いがあった。国としての悲劇ではなく、当時無数に溢れていた個人としての悲劇がそこにはあった。“普通”を奪われ、誰もが片隅で隠れて泣いていた。よくある戦争映画とは少し違う。ヒロイズムでは語れない、大きな暴力に虐げられてきた人々の静かな怒りと叫びが描かれている。
そこから我々は何を学べるのだろうか。戦争という舞台装置を抜きにしても、本作には現代に通じるような地続きの主張があるように思える。個々の影響力には限界があるが、目の前の存在を助け、救い、支え合うことで、小さな波紋が大きな力を呼び、世界が好い方へ回っていくように感じる。
あからさまな反戦映画ではなかったので、割と抵抗もなく、しみじみほんわかと楽しめた。あの爆発シーンの演出も独特で、生々しくないのに、何故だか事の重さがずっしりと来る。ゆっくりと心に残っていく。
すずさんはずっと可愛かったなぁ。コトリンゴの歌声も、すずさんの心に共鳴しているようで、耳触り心地よい。
鹿江光

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