緑雨

この世界の片隅にの緑雨のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.0
この映画を観てからしばらく、心がざわついて仕方がなかったのは、映画の中のセリフにもあるように、すずさんが実に「普通」であるから。そんな「普通」があっけなく破壊される。その様に心が揺さぶられる。

ここで「普通」とは、善良であることであり、また愚鈍であることでもあるのだが、その一方で、絵を描くことへのひとかたならぬ執着と才能だったり、普段の穏やかさや受動性を覆す激しい感情を時に顕す面を持っていたりと、キャラクタの造形が絶妙で、作品全体に対して複雑な影響をもたらし魅力を生んでいる。不器用で抑制された分、性に関する数少ない場面が艶かしさを感じさせることもその一つ。
善良といえば、すずだけでなく家族も皆そうである。義姉のツンデレぶりもドラマに効果をもたらしている。

地方における「銃後」の生活に通底する緊張感と鬱積を描いている点で、個人的には『美しい夏キリシマ』に通じるものを感じたのだが、本作では悲劇が現実のものとなる様が痛切に描かれる。空襲、不発弾、そしてキノコ雲。
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