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この世界の片隅にのstneのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.5
戦争それ自体を扱った作品は、当然見るべき映画の一つではあるけれど、私のような 20代の若輩者が安易に意見を言えるものではないという点で、ついつい忌避してしまう傾向があり、本作を観ずにここまで来てしまった。しかし、それを強く後悔させられる本作だった。描かれていたのは戦争のイデオロギカルな話ではなく、普遍的で具体的な人間の営みだったのだ。食事を作る、衣を編む、掃除をするといった市井の人々の暮し、カタストロフ的な局面でもいかに人間として生きていくか。

この夏の時期になると目にする、モノクロの当時の映像。戦争の映画を観る際どうしてもそのイメージがまとわりつくが、当たり前のことだけど、辺りの風景は今よりも鮮明で、空は澄みわたり、美しく広がっていたのだ。そして、それに呼応するように主人公のすずさんはその日その日を健気に生きる。戦争の暗さと対比される形で自然の情景が美しく、淡いタッチで描かれることで、独特の表現になっているアニメーションが、非常に有効に機能している。

絶対的な悪を描くのではなく、すずさんを中心とした当時の人々の生活、そして心情を丁寧に写し出すことは、戦争それ事態に安易な考えや結論を出すことを拒む。例えば是枝監督の『万引き家族』がそうであったように、素晴らしい作品が私たちに提示してくれるものは、思想や結論ではなく、考えるきっかけ、である。それは端的に多層的であると言うことだが、戦争それ自体を扱い、それでいて様々な考えを引き起こしてくれる作品に仕上げることは容易ではないだろうが、本作はその点が非常に見事だ。

私は常々、想像力こそが人間関係構築の源泉であり、ひいてはより良い人生のキーワードだと考えているのだが、本作を通じて戦争当時を生きていた人たちへの私の想像は確かな広がりをみせた。戦時下においてでも、力強く生き、そこに何かしらの幸福を見つけること。また、時には私たちと変わらない日々のいさかいや他愛ない会話がそこにあったのだ。

当時の状況におかれていた人々の苦悩と現在とでは比べようもないことだが、人が強く生きようとする様はこうも美しいのだと感心してしまった。それは何も当時こんな生き方をしていた人がいるのだから、私も頑張らなくてはといったものではなく、それでも人生は素晴らしいんだという人間讃歌だった。

平成が終わる。改号を経験したことのない私にとっては大してことのないことだと思っていたが、今まで日本で何があったのだろうかということに、自然と目を向けさせれる。それはとりもなをさず、自分自身の過去に向き合うことと繋がっていく。平成最後の夏が終わりを迎えるこのタイミングで本作を観たことは私にとってよい方向に機能した気がする。こういう言い方は好きじゃないが、日本人必見の映画であり、何度も何度も見るべき作品だ。