ハル

この世界の片隅にのハルのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.0
第二次大戦中の広島・呉を舞台に、主人公のすずが知恵や工夫を凝らしながら懸命に生きていく様を、丁寧に描いている。

こうの史代が描くキャラクターはそのタッチの柔らかも手伝って、戦争とは無関係の世界に生きているような錯覚を与える。しかし、物語が進むにつれ、その影は少しずつ平穏を脅かしていき、やがて、すずから大切なものを奪っていくのである。(こういう書き方をすると勘違いされそうなので断っておくが、私は反戦平和主義者ではない。リアリストだ)

有名な太極旗のシーン(玉音放送のシーンの後で朝鮮国の旗が翻るが、原作と映画ではその後の台詞の描かれ方が違う)を巡って不毛な論争が繰り広げられているが、この作品には思想やイデオロギーが入り込む余地はない。描かれているのは、あくまでも、戦中における市井の人々であり、彼らの喪失と再生なのである。すべてを失ったかに見えたすずが原爆投下後の広島で希望を見出していく過程は、右や左のイデオロギーに関係なく涙を誘うし、勇気を与えてくれる。

ドラマ版も合わせてご覧いただきたい。
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