kkkのk太郎

この世界の片隅にのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

太平洋戦争時の呉を舞台に、懸命に生きる女性すずと、彼女の周囲の人々の生活を描くヒューマンドラマ・アニメーション。

主人公すずの声を演じるのは、『告白』『ホットロード』ののん。

第40回 日本アカデミー賞において、最優秀アニメーション作品賞を受賞!

今年も8月がやって来ました。
そのためなのでしょう。この作品が映画館でリバイバル上映していたので観賞してみました。
いつか観ようと思いつつも、戦争映画が苦手だと理由で今まで観てこなかったのを後悔…😭

70人収容の小さいシアターでしたが、3分の2くらいは席が埋まっており、なかなか活気がありました。
アニメとはいえ題材が戦争なので、年齢層は高め。
どちらかというと男性客が多いかなぁという感じ。

太平洋戦争の時代を扱ったアニメといえば、高畑勲監督の『火垂るの墓』と、宮崎駿監督の『風立ちぬ』が思い浮かんでいましたが、この2人の弟子とも言える片渕須直監督がこの2作と肩を並べる、いや、超えているといっても良い程の傑作を作り上げてしまいました。

太平洋戦争末期というデリケートな時代に正面から向き合い、政治色を抑えつつも確固たる反戦メッセージを送り、愛と誠の物語を描き切ったこの作品に万感の思いを込めて拍手を!

徹底的な考証を元に作り上げられた広島や呉の街。生き生きとしたキャラクターの動き。声優の熱演。ひりつくような戦争描写。絶妙なエロティシズム。コトリンゴさんの歌声。「悲しくてやりきれない」を主題歌にするセンス。どれをとっても一級品で本当に感心しました。

この映画、開始3分で泣けます。
幸せな子供時代の映像は、これから悲劇の時代が到来することを知っているだけに涙を誘う。
厳しい時代の中、懸命に「普通」に生きるすずさんの姿にまた涙…😢
あらゆるものを失いながらも、前向きに生きていこうとする北条家の姿にまたまた涙…😭
オープニングからエンディングまでどんだけ泣かすんだこの映画は!

のんさんの演技は本当に神がかっていました。彼女の素朴な演技がなければこの映画はここまで感動的なものになっていなかったと思います。

昨今のアニメ映画の風潮に逆らい、この映画では本職の声優の方々が脇を固めています。
正直、アニメ声優の形式ばった演技が嫌いなのでこのキャスティングには少し不安だったのですが、周作役の細谷佳正さんをはじめ、皆さん素晴らしい演技をされていました。

人類史に残る悲劇の日まで、刻一刻とカウントダウンされていることを知らず、映画の中のキャラクター達は1日1日を出来るだけ楽しく生きていこうとしています。悲劇の時代の中でも、何気ないことで笑い、ご飯を食べて、愛し合い、喧嘩をして…。

終盤になるまで、戦争映画によくある悲劇的なドラマは起こりません。
どこまでも日常の生活を(それは死すらも唐突に訪れる日常な訳ですが…)懸命に生きる人々を描いており、この映画を観ている者全てに、自分の人生について見つめ直すきっかけを与えてくれます。

淡々とした日常が続いて続いて…。
だからこそ、終盤に押し寄せる悲劇の連続が効いてきます。
本当に衝撃的だった…。
この悲劇からエンディングまでの展開で、心を揺さぶられない人が果たしているのでしょうか?

ただ1点個人的に気になったのは、上映時間の長さ。126分はちょっと長く感じましたね。もう少しコンパクトに纏めることも出来たのでは?と思ったりもしたかな。

とはいえ、この映画。
どれだけ言葉を尽くしても尽くしたりない、そもそも言葉でこの映画の感動を伝えること自体が間違っているのだと思います。
ただ観ればいい。そこから各々がなにかを受け止め、考えればいい。そういう映画です、これは。

8月9日が来るたびに、この映画のことを思い出すのでしょう。
夏とともにやって来る、蝉の鳴き声と白い入道雲はいつの時代も変わることがないのだと思いながら…。
kkkのk太郎

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