タナカリエ

この世界の片隅にのタナカリエのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.5


私の敬愛する曽祖母は戦時中、校長先生で
私が生まれる前に亡くなった曽祖父は町長でした。


町長という仕事は、戦時中いわゆる赤札を持って通知しにいき、町から戦争へ送り出すという役目がありました。

また、少ない配給の中、校長先生と町長であった曽祖父母は、せめてもの自分たちの配給をも、と町のみんなに配り、祖母は空っぽのお弁当箱を持って行き、食べた振りをして昼休みをなんとか凌いでいました。


戦後、町から青年たちを戦争へ送り出した戦犯者だと、町中から酷く罵られ、家に引きこもるようになった曽祖父を
曽祖母が働き、祖母は曽祖母の勧めから大学は出たものの、就職せず田舎へ帰り家事をし、家庭を支えてきました。

祖母から聞いた曽祖父の話はとても涙なしでは聞けないほどに酷く、いくら罵られ苦しい生活だったとしても、家族にそんな当たるなんて!と
曽祖母におばあちゃんが可哀想、あんまりだと泣きついた夜がありました。


曽祖母はそっと

悲しさは人を歪ませてしまう
貧しさは人を変えてしまう
卑しさは人で無くしてしまう
あの人は歪みもしたし変わりもしたけど最後まで立派に人だった。
〇〇(祖母)には本当に迷惑をかけて、助けられた。
全部が戦争のせいじゃないかもしれないけれど、戦争がなければと思わない日々はない。
あなたが生きていく人生の中はどうか戦争がない時代であることを心から祈ってるよ

と伝えてくれました。
平成が、戦争のない時代として終わり、今も戦争がない時代が続いています。

すずは嫁いだ全く知らない土地で、自分を見失いそうになる中、絵を描くことが大好きで大好きで、絵を描く自分が本当の自分だ!と見出せたのに
いろんな形(物理的にも、心の面でも)で絵を描くということを奪われてしまったり

きっとすずと同じように自分が自分であると証明するもの、手段を失った人はたくさんいるでしょう

それでも朝はくるし
どんどん未来がやってくる。


その時自分はどうすることで自分でいられるんだろうか、と考えさせられました。
そしてどうか人が悲しみ、貧しく、卑しくならない、その人その人の豊かさを享受できる時間が長く長く続くことを祈るばかりです。