優しいアロエ

この世界の片隅にの優しいアロエのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.6
〈あの戦争は、世界の片隅にまで及んだ〉

 水彩画のような世界に生きる麗かな女性すず。彼女のマイペースな気質が、のどかでゆったりとした映画全体の雰囲気を決めている。

 しかし、本作は思いのほかストーリーがサクサクと進む。ほとんど日常譚であるぶん、食事や家事のシーンの手数に重きを割いているのだ。劇伴はほとんどないが、もはや『グッドフェローズ』的といってもいいぐらいのハイテンポな語り口。それでいてのどかな雰囲気が損なわれることもなく、時間の流れはちゃんと緩やかに感じられたから驚いた。

 また、アニメならではの映像表現に気概が感じられたのもよかった。水彩画のような背景だけでなく、人間をこじんまりと描いたところや、晴美が死んだところがそう。
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 そして、8月15日正午の玉音放送。ついに戦争が終わった。すずが声に出して泣く。戦争に勝つことを疑わない同時代の日本人的な狂気は、彼女の奥底にも忍んでいたのだ。

 右腕を失い、大切な人を失ったすずが、それでも耐え難いことに耐え、我慢ならないことに我慢してこられたのは、彼女の気質からだけでなく、戦争の勝利を信じていたからだったのだ。
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 声優を務めたのんは、自分の影を隠し切れていない感もあったが、コテコテの広島弁がそこをカバーしてくれている。ところどころ思わず唸る演技もあったから、のんの起用にはだいぶ好印象を得られた。
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