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湯を沸かすほどの熱い愛のCOZY922のレビュー・感想・評価

湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)
4.1
自分に残された時間が短いことを知った時、私はこんなふうに家族や大切な人達に向き合えるだろうか? 死への恐怖、絶望感。「なぜ自分が」というやり場の無い憤りや悲しみ、自分のいない世界を思う虚無感や孤独。そんなものに押し潰されそうになりながら、自分の今を歩むのに精一杯になりながら、それでもそれに打ち勝って 周りに愛を注ぐことができるだろうか。お母ちゃん = 双葉 の強さと 全てを包み込むような大きさが 文字通りお湯のように温かく心に沁みてきた。

本作では溢れんばかりの双葉の想いが そこかしこに感じられたのはもちろんだけれど、彼女が これまでもきっと力強く とても丁寧な生き方をしてきたんだろうなと思わせる場面が多い。 ダメ夫を探し出して迎えに行き 稼業の銭湯を再開させるために皆で掃除するのは 家族の一体感を強めそれぞれの責任の喚起を促す。娘をイジメに立ち向かわせる場面は 心の持ち方を教え、あの朝のしゃぶしゃぶの風景は帰る場所 心の居場所としての家庭の存在を示すものになっていたと思う。そんな彼女の強さが 心の痛みと人間の弱さを知っているからこそだということがわかる後半は 前半に散りばめられたものが回収されるのも相まっていろんな感情の波が押し寄せた。

双葉を演じた宮沢りえは ほんとに余命幾ばくも無いからこその この演技なのではと思うほど エネルギーと覚悟の伝わる素晴らしい演じっぷりだったけれど 一番心に残ったのは娘役の杉咲花ちゃん。教室でのシーン。そして体から絞り出すように彼女が言った「お母ちゃんの遺伝子ちょっとだけあった」の言葉には咽び泣くしかなかった。

とても印象に残る1本になったのは間違いない。けれど最後の展開は さすがにどうだろうか?タイトルにも絡むこのくだり、母親の愛の熱量を感じ 分かち合いながら家族が生きていくために、と自分を納得させようとしたけれど これはやり過ぎだったように思う。また 個人的に このシーンにいてほしくなかった人物が含まれていたのも気持ちが引っかかってしまう一因となった。

それでも それらを飲み込んで なお高いクオリティの作品だと思う。人間の強さと弱さが描かれた本作はいわゆる「闘病もの」ではなく「家族愛」と それらを通した「自分自身の心との向き合い方」の物語だった。
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