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湯を沸かすほどの熱い愛のdm10foreverのレビュー・感想・評価

湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)
4.1
【親になるということ】

つい先日「ぼくらの七日間戦争」のレヴューを書いたばかりで、またまた宮沢りえさんの作品です。これはタイトルやキャストに引かれて『もの凄く観たいリスト』にも名を連ねていましたが、やっぱり時期的に仕事が忙しくて、映画にまで気持ちがまわらない・・・と泣く泣く劇場鑑賞を見送った作品です。

ようやくDVD化されましたので、早速鑑賞。

日本アカデミー賞では主演女優賞(宮沢りえ)と助演女優賞(杉咲花)を獲りましたが、これは特にこの作品を評価するにあたってはこの上ない評価だと思います。ある意味では「作品賞」よりも価値があるかもしれない。映画を観てその評価の意味がわかりました。

この作品では母親である双葉(宮沢りえ)の「末期癌の診断を受け余命2ヶ月と宣告されてからの力強い生き方」を描いた作品ととられがちですが、それは全く違います。
彼女は癌の宣告を受けたから強くなったんじゃない、彼女は日常生活においても常に芯のある生き方をしている女性でした。
学校で辛いイジメに遭っている安澄(杉咲花)に対しても、絶対に妥協は許しませんでした。逃げずに立ち向かえ、逃げたら何も変わらないんだよと。

「あなたは強いんだよ。だってあなたはお母ちゃんの子だもん」

この言葉はあとあと、とても大きな意味を持つ言葉でもありますが、ただ厳しく育てるだけじゃない、この子が将来強く生きていくために心を鬼にして、妥協しようとする子供と正面から向き合っている「お母ちゃん」なのです。

安澄の実の母親(君江)に引き合わせた時、安澄は手話で会話をしました。
驚いて安澄に(どうして手話ができるの?)と質問すると、
「いつか必要となる時が来るから、覚えておきなさいって」
涙腺崩壊の瞬間でした。
手話なんて一朝一夕で覚えられるようなものではありません。つまり、自分が癌になるならないに関係なく、いつか本当のことを言うつもりだったんだな・・・と。
その上で「あなたはお母ちゃんの子だもん」と言える強さ。

・・・この話に登場する「幸野家」は実はみんなバラバラで、かろうじて「安澄」と「お父ちゃん」の血が繋がっていることはわかったものの、鮎子に関しては「恐らくお父ちゃんの子だけど、本当のところどうなの?」という含みも残しつつという感じでした。つまりお母ちゃんは誰とも血の繋がりはなかったのです。
ほんと、たまに思うけど、家族って何なんだろう・・・て。

でも、双葉には「血の繋がり」は関係ありませんでした。
いや関係なくは無かったな。むしろ、大いに関係ありの人生を彼女自身が生きてきたからこそ、今の彼女に辿り着いたんだなってわかる。
何の経験も無い人の薄っぺらな言葉ではなく、「家族を愛すること」を心から求めた人だったんだって。だからこそ彼女から「必要なのは「ただ血が繋がっただけの希薄な関係」よりも「家族として心から相手の事を思いやれる関係」なんだ」という信念で家族と向き合っていることが伝わってきた。
そう思うのは、彼女自身が本当の母親に捨てられた過去を持つから?
違う、捨てたれたことが辛いんじゃない。本当に辛かったのは「捨てられた過去」すら無かったことにされたこと。
「自分は一人じゃない」ってずっと踏ん張って心の中で支えてきたものを、血の繋がった実の母に無造作に壊されたことが辛かったのだ。

でも、彼女が「自身の信念」に基づいて生きてきたから、彼女の周りには「大切な家族達」が笑顔で彼女の最後を見送ってくれていた。そこにあったのは「血の繋がり」ではなく、お互いを大切にしあう家族だった。ちゃんと双葉のやりたかったことが実を結んだ瞬間だったのかもしれない。

あの、お風呂・・・・とっても温かかっただろうな。
なんか、そんな感じがとても伝わってくるラストシーンだった。
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