ミドリ

顔のないヒトラーたちのミドリのネタバレレビュー・内容・結末

顔のないヒトラーたち(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

昨日観た『ヒトラー暗殺、13分の誤算』でモヤモヤとしていた部分…ヒトラー以外のナチス党員及び支持者たちの罪についてが、一緒に借りたこの作品でテーマになっていた。

フィクションも交えてはいるが実話ベース。

----------

1958年のフランクフルト。
学校の前を通りかかった男がタバコを吸おうとするがポケットを探っても火が見つからない。校庭にいた教員が男に気付き声をかけ、火を貸した。男は教員の指が6本あるのが目に入り、何かに気付き顔を見た瞬間、持っていた鞄を落とし震えた。



交通違反の裁判ばかり担当していた検事のヨハン・ラドマン。彼は『常に正しき行いを 父より』と書かれたメモと父と自分の写真が入った写真立てを大切にしていた。
ある日検察庁のロビーに来た二人の男が「元ナチス親衛隊のアロイス・シュルツが教職に就いている」と訴えてきた。二人はジャーナリストのトーマスと、トーマスの友人であり元アウシュヴィッツ収容者のシモン。
校前で火を貸して貰ったのはシモンだった。
戦後数十年が経ち、史上最悪の残虐行為でありながら誰もが自分達の罪や戦争の記憶を無かった事にしようと、忘れ去ろうとしていた。そんな中の訴え。
検察総長の一声により二人は諦めて資料を投げ捨て帰ったが、唯一1930年生まれのヨハンが興味を示し、捨てられた資料を拾い、調べ始める。

----------

先が気になる導入で、裁判までの証言・証拠集め等も事実に基づいているので大変興味深かった。
収容所での駐留経験だけでは裁判にかけられず、教職に就く事を辞めさせられなかったというのも初めて知った。

「ウソと沈黙はもう終わりにする」っていうヨハンの正義感は諸刃の剣。自身の父親が党員だった事やトーマスが見張りだった事等を知り「誰も信用できない!」という展開はヨハンの性格から想像出来るものだったけど、良くも悪くもその性格が内容に活きていたし、テンポが良かったので最後まで飽きずに観られた。

1963年のフランクフルトのアウシュヴィッツ裁判初公判までの話だけど、アイヒマン裁判は1961年にエルサレムで初公判だから、アイヒマンの方が先。名前が出てきた程度でほぼ触れていなかったので、アイヒマン裁判のテレビ中継等も上手く絡めて欲しかったかも。

「ヒトラーの死でナチスが全滅したとでも?それはあり得ん。今も生きてる。」
「ヒトラーだけでなく一般市民が罪を犯した。それも自ら進んで。」
「犯罪に関わった者全てがアウシュヴィッツを作った」
「有罪か無罪かだけでこの問題を捉えるなら何も得られないぞ」
検察総長の言葉は大事な言葉ばかり。
最初の元収容者の話を聞いている時じっと見てた検事総長見て、裏があるのかと疑ってたよ。ごめんね。

事実に基づいているので、シモンの双子の娘への人体実験の話等はあまりにおぞましく、観た後にメンゲレについて調べたら気分が悪くなりそうだった。『アイヒマン・ショー』でも裁判中に体調を崩す元収容者や収容者の関係者がいたけど、やはり聞くに耐えない内容だと思う。

結果的にフランクフルトのアウシュヴィッツ裁判では元収容者211人が証言台に立ち、罪に問われた元親衛隊員19人中17人に有罪判決が出たそう。
そして『20ヶ月の裁判中、自責の念を表す被告は居なかった』と。

ヨハンがBKAの刑事にフィッシャーさんは?と聞いた時、謹慎になった「若者は忠誠心を知らん」と言っていたけど、検事総長が言っていた「公的機関にはナチスが潜んでいる」ってこれかと思ってしまった。
間違った『忠誠』の怖さ。

最近ホロコーストやナチス親衛隊裁判関連の映画を観ているけど、やはりまだまだ知らない事ばかり。無知の恥。どんなに酷く、聞くだけでも辛い事でも、何が行われていたのか事実を知ろうと思う。

2017年:80本目
ミドリ

ミドリ