湯林檎

カミーユ・クローデルの湯林檎のレビュー・感想・評価

カミーユ・クローデル(1988年製作の映画)
3.9
ついにやってきた芸術の秋🎨🎶🍁
ということでしばらくの間芸術(美術、音楽)に関する作品をぼちぼち観ていきたいと思う。
今作は観たい映画の中でも特にずっと前から気に留めておいた作品の1つ。
とは言っても真面目に彫刻に関する勉強をしたことがなく、ましてやロダンとカミーユの作品や詳しい関係性についてはぼんやりと愛人関係にあったことくらいしか知識にない。
じゃあ何故この映画がずっと気になっていたかと言うと、脇役に音楽家のドビュッシーが登場すると言うことを知っていたから。

私は子供の頃よりクラシック音楽を愛好しており、中でもドビュッシーは非常に特別な思い入れがあって今なお最も好んで聴いている作曲家である。ところが今現在彼の生涯を描いた映画作品がないので非常に寂しいと思っていた。
そんな中、どうしても映画作品で彼の姿を拝見したく今作を鑑賞するに至った。

まず、映画全体の感想としては撮影の演出がとても美しいと感じた。カミーユ役のイザベル・アジャーニが容姿端麗で画面映えするだけでなく、人や物体に対しての光のコントラストの加減が絶妙でベルエポックの華やかな雰囲気をよく出せていると思う。
上映時間が若干長いかと思ったものの案外そんな風には感じなく、イザベル・アジャーニによるカミーユの彫刻に対するプライドとロダンへの想いの複雑な絡み合い、そして精神を病んで破滅に向かう演技はアカデミー賞に匹敵すると感じた。(実際にアカデミー賞にノミネートされているし、この作品の演技でセザール賞も受賞している)

そして真の目的である劇中のドビュッシーの姿についてだが、想像以上に出番が多くて演じている俳優がイケメンで安心した(笑)
そして何よりも劇中ドビュッシーのピアノ伴奏による「Ariettes oubliées」(L.60)より"Aquarelles II. Spleen"が聴けたことがとても嬉しかった。この楽曲はつぶやきとはっきりした口調の対比によって愛の強さゆえの不安な内面の葛藤を表現している。(となると歌っていた女性はメアリー・ガーデンということだったのか?笑)
カミーユのロダンに対する愛の葛藤を表現しているという意味では非常に的確な描写だと感じた。
それにしてもいちドビュッシーファンとしては嬉しいサプライズだと感じ取った。
史実、ドビュッシーはカミーユの"ワルツ"を亡くなるまで仕事場に置いて愛用していたという記録があるし、数々の理想主義者の芸術家と交流があったドビュッシーにとって美貌の天才彫刻家のカミーユがどれだけ魅力的だったか、あくまで映画の制作陣側の受け取り方としての描写だが上手く描けていたと思う。

最後に作家ジョセファン・ペラダンの言葉を借用。「芸術家よ、汝は司祭、芸術は偉大なる神秘である……、芸術家よ、汝は王、芸術は真の帝国である……芸術家よ、汝は魔術師、芸術は偉大なる奇蹟である」
芸術的創造が神聖であり同時に秘儀参入であることを謳った当時の理想主義者の代弁的な言葉だと言える。
ロダンの女性に対する扱い方とカミーユの恐ろしく高邁な志と自意識過剰ぶり、そして精神の不安定さは客観的に見たらイカれた人達にしか見えない。それでも彼ら彼女らの作品は現代でも愛されている。彫刻の詳しい技術や査定等は分からないにせよ、普遍的な作品を生み出したことは事実だ。
私は今作は合理主義と実証主義で縛られた実社会から反した"芸術世界"の闇の一部を描いた上等な作品だと感じた。


※完全なる余談。出来たらウディ・アレン監督にドビュッシーを題材とした映画を撮って頂きたい。芸術好き、女好きな面はウディ・アレン自身も共感できるのでは?笑 しかも一度「ミッドナイト・イン・パリ」で近い時代の作品撮ってるし、本腰入れればかなりの良作になると思われるw 映画を作る気力が残っているうちに何とかこの手の作品を作って欲しい!
でも過去に色々スキャンダルを起こしているから難しいのかな。。。
ウディ・アレン監督が難しければケネス・ブラナーに作って欲しいな。
湯林檎

湯林檎