「僕たちが無意識に抱えている、溢れるノスタルジー。
あの頃の”時代”への最高に狂ったオマージュを食らえ!」
B級映画?パッケージ観て分かり切っていること聞いちゃ駄目さ。
そこは大事じゃない。
そして『チャリンコ・マッドマックス』と宣伝されているが、この作品の魅力はそこだけじゃないぞ。これはあからさまと言えるほどターゲットを絞って作り込まれたディテールの数々を以て、ある世代を生きた人々に対して胸熱のメッセージを発信する偏愛に満ちた作品だ。
作品の形式が映画だからと映画にだけオマージュを捧げていると思ったら見逃してしまう要素がたくさんある。
僕たちが若い頃、それは80~90年代。その頃世界の終わりは当たり前のように「世紀末」と呼ばれ、それは199X年だった。
ポスト・アポカリプス。それを象徴する映像作品は『マッドマックス2』であり、日本人には『北斗の拳』にも象徴される荒廃した世界だった。
そしてその頃僕たち(オタク)が胸を熱くしたもの。ドット絵のゲーム、シンセサイザー、アクション映画、スプラッター映画…
その時代を過ごした多くの(そして一部の)大人たちの『記憶に刻まれた傷跡』とも言える煌びやかな思い出にもう一度色鮮やかな修正を加えてワクワクさせる映画がこの『ターボキッド』だ。
だからタイトル(パッケージのじゃなくて劇中の)が出てきた時に感じる人もいるはず。このフォントと色彩って『トランスフォーマー コンボイの謎』じゃないか!って。
時代設定は、荒廃した“未来”であって1997年である。
『マッドマックス2』と『~怒りのデスロード』では車やガソリンが力と信仰の象徴だったが、この世界ではガソリンも車も無い。単純に腕力で人間の優劣が決まる。車が無いから必然的に自転車に乗る。水や資源が限られているために人間さえも資源の一部とみなされており、単純に人間の力と体力が全ての優劣に直結する世界。
ある程度リアルに設定される世界観はそこまでだ。そこに注ぎ込まれるのが80~90年代ノスタルジーと、レトロゲームの荒唐無稽な荒い描写。
ファミコンに熱くなってたあの頃、記憶の彼方にひっそり忘れ去られていた「パワーグローブ コントローラー」激似な十字キー付きの武器を身に付け、悪と戦う『ロックマン』風に成長する主人公。相棒は臭いセリフのマッチョなカウボーイと突き抜ける程ぶっ飛んだ純真無垢なヒロイン。
『ゼルダの伝説』的演出の数々は、ドット絵ハートマークのライフ表示で頂点を極める。
悪役の分かり易さは言うに及ばず『マッドマックス的』ヴィランの造形。
CGに頼らない必要以上に過度なスプラッター描写と笑いの融合が『ブレインデッド』を思い出させないわけがない。頭の上半分のぶっとび具合なんてそのまんま。
出会った少年少女が自転車二人乗りで後ろからハグなんてオレ達の青春そのまんま。
最小限に使用されるCG処理はまさかセガサターンで作ったのかと思ったわ。
音楽はジョン・カーペンター先生の影響を思わせるテクノ・ポップなシンセサイザー全開で、ビームのSEなんて16bit世代には熱い聞き心地。
そして自転車と言えば“BMX”で、ヒーロー特撮と言えば“採石場”だ!
ゴア描写の酷さに引いてしまう人もいるようだが、昔のゲームなんてそんなもんさ。今までマリオがどんな死に方をしてきたか、何人死んできたか考えたら生易しいものだし、レトロゲームの敵キャラは死ぬ時弾け飛ぶのがお約束。それを実写にしただけだから何も不自然じゃない。これは“ゲーム”なんだ。
それにしてもこれほどまでに完璧なB級映画を私は知らない。…『完璧なB級』ってなんだ??
家庭用ゲーム機のスペックの進化が止まらず、その揺り戻しとしてレトロなゲームの魅力が再燃するように『~怒りのデスロード』で熱くなった我々がこの『ターボキッド』の登場を歓迎しない理由はどこにも無いだろう。
この映画に胸を熱くした俺たちは流れるエンドロールの画面を観て思い出す。あの頃俺たちを繋いでいた”時代”という力。SNSではない別のモノ。コントローラーを握りしめてエンディングに辿り着いた時の、オレ達の間で自然共有されていたあの達成感を。あの頃俺たちは毎日世界を救ってたんだぜ。私はこの作品を手に取った若き勇者たちにこう聞きたい。「”スーファミ”って知ってるか?」ってね。あるいはこうだ。「“メガドラ”なら知ってるか?」「あっじゃあ“ジェネシス”は??」
フィクションに対する無慈悲な突っ込みほど物事をつまらなくするものはない。説明不要のノスタルジーに生かされているんだ、俺たちは。
あの時、胸を熱くした色、形、音、キャラクター、言葉、そして人。それら記憶に支えられて俺たちは不安定な未来との板挟みに生きている。
良い思い出もDQNな過去も、その記憶が俺たちに勇気を与え、精神的な成熟を促す。それは無形のもので、ロボットには無いものだ。この主人公も誰かと出会うこと、また何かを喪失することで成長し、安住の地を旅立つ決意を固めた。
私たちは誰か(何か)と出会う前にも、喪う前にも戻れない。そうした獲得と喪失の狭間で言葉にできなかった想いの数々をこの映画は蘇らせてくれた。
思い出補正の影響もあろうが、久しぶりに映画を観ながら目が熱いもので潤んでしまった。
B級映画と批判的になる人ほど観てもらいたい作品だった。時に無批判的な姿勢で何かに触れるだけで、生き生きと色鮮やかに蘇るメッセージが世の中に溢れていることに気付きます。常識を疑う事で思考は活性化するが、何かを楽しむ上ではそれで失われる純粋なものもある事を知っておきたい。
これは最高に完璧なB級映画だ!
【追記】
① ヒロインのアップルがキュート過ぎてクセになります*
最初に出会った時は「鬱陶しい奴だな」って思ったけど、ノーム・スティックを初めて手にした時のリアクションでオチました。
全編通してアップルの魅力が全開なだけに、中盤に明かされる事実や後半の展開にはテンション振り回されっぱなしです。
そしてまた私はアップルに会いにblu-rayを回すのでした。
② 最高にゴキゲンなサントラがYOUTUBEにUPされています♪予告編とともに心が熱くなった人にはハズれない作品だと思います★
③ パッケージのタイトルフォントは劇中に使われてるモノと同じような色彩とデザインにしたらもっと(ダサ)カッコよかったのになぁ*