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ハッピーアワーのwigglingのレビュー・感想・評価

ハッピーアワー(2015年製作の映画)
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日本映画界の最重要人物、濱口竜介の新作をジャパンプレミアで鑑賞。5時間17分という規格外の本作は、映画表現の新たな可能性、特に「演じるとは何か?」に関する新たな地平が見える作品でもありました。言うまでもなく今年のベスト邦画です。

主人公は30代後半の女性4人、お互いを親友と思っている。ところが1人が離婚協議中である事を告白すると、友情に波紋が広がり他の3人の家庭や生活に揺らぎが生じ始める、というお話。

そんなシンプルな物語を描くのに何故これだけの尺が必要なのかという事については、観終えた今となっては、「それしかやりようがない」という監督の言葉が完全に理解できます。お互いの関係性や自分の内面に向き合う描写を丹念に行おうとするなら、これこそが(唯一とは言わないが)正しい方法なのだと。

4時間15分というこれまた長尺の『親密さ』(2012年)でも見られた、映画内演劇を省略なしに描く手法と同様に、本作では不思議なワークショップや朗読会の様子がほぼ省略なしに丸ごと収められてます。普通の映画では絶対にやらない手法をとることで、人物の様々な側面を丹念に描けるし実在感もより増してくる。
その結果、映画の観客は傍観者を脱し、映画の中に生きているような錯覚をし始めるんですね。これこそが濱口作品の真骨頂です。

そして、本作の特徴である職業俳優は1人もいないというのも重要な要素。ぶっちゃけ演技は上手いとは言えないし、むしろ下手なんだけど、それは重要ではないんだと。演者が表現したい事/表現すべき事を持っていて、それを生き生きと表現する事ができれば観る者を魅了するのだと。本作ではそんなスリリングな体験を味わえます。

濱口ファンであれば、東北三部作で使われた2者での相互インタビューのカメラワークや、『親密さ』の夜を越えて橋を歩く長回しシーンを思い出してニヤリとするでしょうね。そして、遅い乗り物総出演か?ってくらいの乗り物映画でもあるのも見所のひとつ。

とまぁ長々と書きましたが、諸々のスペシャルな要素を抜きにしても純粋に面白い映画です。この駄文で何かを感じることがあれば、ぜひ本作で濱口竜介が作り出す幸せな時間(ハッピーアワー)を体験して欲しいものです。過去作も傑作だらけなので掘り甲斐ありますよ。