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ハッピーアワーのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

ハッピーアワー(2015年製作の映画)
3.9
濱口亮介監督が、神戸で開催した"演技のワークショップ"に参加した演技経験のなかった30代後半の4人の女性たちをヒロインにして作り上げたヒューマン・ドラマ。
4人がロカルノ国際映画祭でそろって最優秀女優賞を受賞して話題になった。
脚本 は、はたのこうぼう(濱口竜介、野原位、高橋知由)
英語: Happy Hour (2015、5時間17分)

神戸で暮らす仲のよい30代後半の4人の女性たち(バツイチ1人と既婚者3人)は、あるワークショップ(身体を使うセミナー)に参加する。
打ち上げの席で突然、1人が夫と離婚裁判中であると告白し、ほかの3人の女性たちは動揺する。
その後、4人は一緒に有馬に温泉旅行に出掛け楽しく過ごすが、その女性が失踪したことを後日、女性の夫から知らされる…

~4人の女性と家族ら~
①・あかり(田中幸恵):常に張り詰めた精神状態を強いられる看護師。仕事ができる。バツイチ。ウソをつかれるのが嫌い。姉御肌で何でも率直に言う(ある意味、他の友だちが言えないことを代弁してくれている)。
(勤める病院の関係者)
・栗田(田辺泰信):あかりに好意をもつ若い医師。
・柚月(渋谷采郁):2年目だが、「すいません」と謝ってばかりの頼りない後輩看護師。

②・桜子(菊池葉月):中学生の息子をもち、姑と 同居する専業主婦。穏やかでどちらかというとおとなしい性格。純とは中学の時からの友だち(他の2人は30代から)。セックスレス。あるバチイチ男から好かれる。
・桜子の夫、井場良彦(申芳夫):役所勤務。家庭を妻に任せっきりの仕事人間。
・息子、大紀(川村知):中学3年生。同級生の彼女を妊娠させ親に中絶費用を求める。
・夫の母みつ(福永祥子)

③・芙美(三原麻衣子):アートセンターに勤める学芸員。夫が若い女性小説家に気があると気づき、距離間を感じる。
・夫、塚本拓也(三浦博之):編集者。妻と会話ができているつもりだが、本当の会話になっていないのことに気づかない。
・野瀬こずえ(椎橋怜奈):拓也が編集担当をしている25歳の小説家。
・河野(伊藤勇一郎):芙美の同僚。「朗読会」に鵜飼を呼んだ学芸員。

④・純(川村りら):夫が離婚に同意しないため訴訟を起こす。4人で旅行後に夫から逃れるため失踪。
・夫、公平(謝花喜天):生命物理学者。自分への愛情を失った妻との離婚に応じない"精神的ストーカー"男。「朗読会」では活躍。
・滝野葉子(殿井歩):有馬で4人揃っての写真を撮ってくれた女性。偶然乗り合わせたバスで純と会話するが、突然バスから降りてしまう。

~ワークショップ(セミナー)「重心って何だ?」の関係者~
・鵜飼(柴田修兵):主催者。女と見れば漁ってしまう"心が空洞"の男。
・鵜飼の妹、日向子(出村弘美):参加者。バーを営む若い女性。見ず知らずの人と性交渉することに抵抗感を余り感じない。
・風間(坂庄基):参加者。バツイチの男性。桜子にひかれる。
・よしえ(久貝亜美):参加者。

「私は、夫に殺されたのです」

「そんな勝手な好きってありますか」

「私も同じ。こうしかでけへん」

女性たちの心理を巧みに掬い取ったとても見応えのある作品。
ファースシーンから引き込まれ、長さを全く感じさせない。
監督を含む3人による脚本は、つじつまの合わない唐突なところもあるが、会話劇としてなかなかよくできている。
濱口監督は、ジョン・カサヴェテス監督の「ハズバンズ(Husbands)」を本作の物語の原型としたようだが、ちょっとエリック・ロメールや小津安二郎の香りもしますね。
棒読みのような話し方、ぎこちない演技(訳の分からないイカサマっぽい"ワークショップ"の内容と参加者の感想)に初めは少し戸惑いを覚えるかもしれないが、すぐに慣れてくる。
出演者も次第に演技の固さが取れてくる。プロの役者だとダメ出しされると思われるシーンも見受けられるが、所々で役柄に入り込んだ極自然な素晴らしい感情表現を見せる。
メジャー作品を中心に作り込みすぎるオーバーワークな俳優が多い中、4人のヒロイン(ヒロイン以外も)の"シロート"演技は逆に新鮮な感じがするのではないか。
阿部海太郎の穏やかな音楽も、ヒロインたちの心を反映して映画を彩る。
(蛇足)
それにしても、ヒロインたち4人はみんな魅力的なのに、登場する男たちはどうしようもないですね。彼女たちは、そもそもこんな男たちとなぜ結婚したのか(こんな男たちをなぜ選んだのか)、初めから結婚(相手の選択)は間違いだったのではないかとも思ってしまう(映画の本筋から離れてしまった…)。
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