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ハッピーアワーのleylaのレビュー・感想・評価

ハッピーアワー(2015年製作の映画)
4.5
5時間以上観て、あれもう終わっちゃうの?と思った。

普通の人の営みの中に、朗読や演劇、ワークショップといったモチーフを絡めながら、創作の根本を描き出している監督だなぁと、濱口監督作品を観た時によく思います。今作もそうでした。映画人としての性(さが)みたいなものを感じます。

空々しくも生々しさを持ち、交わされる会話。普通のやりとりに見えるのに緊張感が続き、5時間という長さを感じさせない。この先もずっと4人の女性たちの行く末を見守っていたい、この作品が終わって欲しくない、そんな気持ちになりました。

4人の女友達の群像劇です。4人は一緒に旅行し、時々飲みに行く間柄。ある日、1人の女性の失踪をきっかけに少しずつ変わっていく彼女たちの心情と再生。そして彼女たちに関わる男たちの気づきと成長を描く。不在の人間の存在感が今作のキモになっていました。監督は『ハズバンド(カサヴェテス)』の裏面として位置づけているようです。

“過ぎ去っていく出来事”を私たちは見過ごしているのかもしれないし、見ない振りをしてやり過ごそうとしているのかもしれないと、ハッと気づかされます。今作の主人公たちは、不在になった友人を通して今の問題を“過ぎ去った出来事”にせず、足を止めて自分自身見つめ直します。

何かのきっかけさえあれば変化は起きるし、何気ないことも目を凝らして見れば映画になり得ると思えました。今作は彼女たちが心の変化を遂げる、そのきっかけに至るまでを私たちが見つめていく作業に近い。そこから彼女たちが問題を発見し、解決法を探り、解決していく過程を追体験した気持ちになる。だから観終わって数学問題が解けたようなスッキリとした気持ちになり、ホッと癒されるのかなぁと思いました。

映画って面白いなぁと改めて感じる悦び。ハッピーアワーという皮肉なタイトルだけど、この5時間こそが私のハッピーアワーでした。

有名俳優などいなくても傑作は作れる。素人だからこそリアリティを生み、惹きつけられてしまう所以と思った。演技を引き出した濱口監督の手腕が素晴らしかったです。
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