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パッセンジャーのmazdaのレビュー・感想・評価

パッセンジャー(2016年製作の映画)
3.9
シンプルに、生きてるって素晴らしいと感じれるSFが好き。どんなに進歩した発展があっても信じられない発明があっても、見たことのない宇宙世界があっても、人の感情の美しさと素晴らしさにそれらが勝つことなど絶対にない。
『ゼログラビティ』や『オデッセイ』と同様、未知の宇宙空間の中で、こんなにも素晴らしい発展をした未来なのにトラブルが起きてしまうというところからこの物語も始まる。本当にこういうSFが大好き。科学やロボットに頼りまくりの未来でも絶対絶命のその時は自分の力しか残らない。宇宙人とかロケットとかロボットとかにはまったく興味がないからこそ、SF映画を通して描くリアリティにはとてつもなく惹かれる。

新しい星を目指して、シャトル内で120年間の冬眠の旅をする5000人の乗客の中、唯一90年早く目覚めてしまった男女。この観たいと思わせる予告から想像していた物語とは少し違う展開が待っていた。これがこの映画の評価が分かれる大きなポイントで、主人公のある重大な選択を理解できるかできないかで映画の面白さはかなり変わる。誰もが予想していたあちらの展開だったとしたらそれこそリアリティにかけて私はここまでの評価にはならなかっただろう。彼の選択が良い判断か悪い判断かは正直なんともいえないのだがすごく現実味があって人間らしいなと思えた。

誰だって自分の人生を1番に考えてしまうけど、その人生の中には他の人生がいくつも交わっている。自分が最善と思ってした行動も誰かから思えば最悪の事態になり兼ねないし、何かを選択するということは、自分だけの感情でやってしまうと過ちと化すことがたくさんある。そして誤ったその選択は後悔しても遅いのだが、その感情を忘れることなどできないのだ。けれどその選択をしたから今やこの先の未来がある。その選択によって気づけたことや生まれた感情があり出逢えた人がいる。彼がそのとんでもない選択をしていなかったらこのラストは生まれなかったし、そもそも彼が90年早く目覚めていなければ助からなかった人だっているのだ。

最初彼のとんでも選択を聞いた時、絶対間違っていると怒りに近い感情が一瞬わいたのだが、自分がもし彼と同じ立場だった時どうするかと考えたら、その怒りこそ一方的な感情で間違いだと思いハッとなり、次の瞬間にはとめられない彼の感情に強く共感して、その複雑なきもちにいたたまれなくなり思わず涙がでた。考え方は人それぞれだが、彼の立場になったら多くの人間がこの選択を考え、実行してしまうんじゃないかと思う。
人なんて欲望の塊なのだから生きているうえで自分の快楽を求めるのは不思議なことではない。「人は溺れたら、溺れまいと誰かにすがりつく」の話はまさにその通りで、絶望的な状況の中で唯一見つけた希望であり、その希望だけが今の自分の人生の支えだとしたら、それを頼りに生きようと思うのが普通だろう。

地球上にたった1人というのは、まず笑顔が生まれることはない。自分の間違いを客観視して気づいてくれる人もいないし、辛い時に寄り添ってくれる人もいない。自分の考えを聞いてくれる人もいない。感情は誰かに伝わり、そしてまた誰かが何かを感じ取る、共有できるからこそ素晴らしいものなのに、自分1人しかいない状況では泣きわめこうが怒りくるおうが、誰にも何も届かないから無意味でしかないし、言葉の価値もなくなる。そんなの死んだも同然だと思ってしまう。人は1人では生きられない。自分の人生が1番大切なはずなのに、自分の人生のためには誰かの人生が必要になるのだ。

とても楽しめたけどしいていうなら、主演はもっと違うタイプの男性の方が面白いかなと思った。死ぬまで2人しかいない空間というのは、どんな相手だろうと互いが必要となるはずだし、いざという状況の中で年齢や見た目は求めないはず。クリス・プラットは十分すぎるイケメンだからこの人が人生のパートナーでいいとあっさり思えてしまう気がするので(笑)もっと2人に歳の差があるとか、イケメンとはいえないルックスとか、そういう恋愛に発展しなさそうな相手でも必要とするうちに男女関係が生まれる方が観る側にとって身近にリアルを感じれて面白い気がした。
そう考えるとこんな美男美女をキャスティングしてしまうところはやっぱり映画の世界だなって思って、一線をひいての観賞になってしまったのが減点理由。とはいえ、アンガの田中や出川さんみたいな感じじゃいくら見た目にこだわらないとはいえここまで魅力的なラブストーリーにはならないだろうし、そういう意味ではとことんフィクションの方が絵としては美しいのかもしれない。。笑

無重力になる瞬間、怖さと美しさって紙一重だなと思った。すごくドキドキした瞬間だった。
「それもまた人生」って思える心の方が、人生のいろんなことを楽しめるんだろう。『理想に囚われると今すべきことを見失ってしまう』良き言葉。
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