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ペットのsanbonのレビュー・感想・評価

ペット(2016年製作の映画)
3.4
型落ちの「トイ・ストーリー」

こんなイメージが、鑑賞中脳裏をよぎった方も多くいるのではないだろうか。

それは、人間の預かり知らないところで繰り広げられる「ペット」達による独自のコミュニティを描いた今作が、まんま"オモチャ"を"動物"に置き換えただけの"雛形"に見えてしまうからであり、"飼い主のいるペット"と"飼い主に捨てられた元ペット"の対立構造も、すでにトイ・ストーリーがオモチャをベースに何作にも渡り描いてしまっている題材だった為、今更目新しさを感じる事も正直言って難しかった今作。

だが、この「テンプレ」的な作品自体を否定するつもりは僕はさらさらない。

何故なら、映画というカルチャーが定着して久しいこの現代において、世に溢れる全ての作品は"過去に先人達の手により培われた土台の上で成り立つもの"と心得ているからである。

いまや観衆の目も肥えに肥えきって、あの手この手を出し尽くされた現状にあっては、どんな作品であれ一度は過去に形作られた事のある「二番煎じ」になるのは必然だし、それ程までに"ネタ"が出し尽くされた"飽和状態"に陥って長らく経つ事は、もはや火を見るよりも明らかな事だ。

だからこそ「なんかこの作品○○にソックリじゃね?」などと、一側面だけを取り沙汰しては発展性の感じない退廃的なコメントをするのは、基本的には極力避けたいところであり、個人的にはその作品"ならでは"と思えるものがなにか一つでもあれば、まずは及第点かなと常々考えて映画は楽しんでいる。

だが、この作品はそういう見方をしたとしても、残念な事におおよそ"力不足"を感じてしまったと言わざるを得ない。

では、なぜ今作が今一歩その域から抜け出せないでいるのかというと、この作品には「教訓」となり得る「テーマ性」がごっそり抜け落ちてしまっているからだった。

アメリカのアニメーションスタジオは、日常の何気ない一コマだけを切り取り、最大限の誇張をもって壮大な物語へと発展させていく「絵本」のような作品作りを最も得意としており、ターゲット層も完全に「低年齢向け」と明確にしたうえで制作にあたるため、特色をブレさせない事を一つの強みとしている。

それでも、大人も巻き込みながらマーケットを拡大して人気を得られるその理由は、まさしく絵本や童話の特徴とも言える教訓を物語の中に必ず込めて奥行きを表現するからなのだ。

分かりやすいように、類似作であるトイ・ストーリーを例に挙げると、この作品には「物を大事にする事の大切さ」をオモチャを通して子供達に投げかけているのが分かる。

しかも、その教訓自体はいくつ歳を重ねても大事な概念である事に変わりはなく、かつ誰しもが世代を問わず一度は手にした事のあるオモチャというフィルターを通すことにより、子供にとっては身近に感じ、大人が観れば"ノスタルジー"を感じる題材ともなっていた為、それが全年齢層に響き特大のヒット作にまでなったのだ。

では、かたや今作ペットにおける教訓を劇中から探してみると、そうなり得る要素はふんだんに盛り込まれていた筈なのに、そのどれもが中途半端にしか描ききれておらず、テーマ性を表現するまでには至らずに流れてしまっている。

例えば「飼い主に捨てられた動物達の集落」然り「保健所送りに躍起になる役人達」然り「離れ離れになってしまった元の飼い主」然り、思い付く限りでも上手く練り上げれば問題提起やメッセージ性を強く打ち出せる展開には枚挙に暇がない筈だった。

だが、今作はそれらを意図的なのかは別として、場面の賑やかし程度にしか活かしきれておらず、終始描かれるのは破天荒な程の動物達のハチャメチャなストーリーだけなのである。

もちろん、そもそもが低年齢層にあてた映画というのが大前提であるから、それだけで突っ走ってみせるのも決して悪手ではない。

だが「ディズニー」や「ピクサー」は、そこにもう一つメッセージ性を忍ばせてくるから間口が広くもなるし、心に残る名作にさえなり得るのだ。

なので、これが"ある"のと"ない"のとでは、作品のクオリティにはやはり雲泥の差ほどの多大な影響を与えてしまうといっても過言ではないと思う。

もしかしたら、第三勢力である「イルミネーション・エンターテインメント」の作品に対しては、そういったところに物足りなさを感じている人も少なくはないと思う。

逆説的な話になってしまうが、もし仮に会社ぐるみで"何も考えずにただ楽しめる作品作り"に特化しようという計画があったとしよう。

そうだとしても、その計画においては"オリジナリティ"の確立がもっともっと重要性を帯びてくる筈なので、それはそれで今作のような"類似作を想起"させるような設定の作品を世に送り出してしまうようでは、あまりその方針には添えていないと感じる他ない。

結論を言ってしまうと、総合的に検証をした結果、メッセージ性がなくオリジナリティも感じない今作は、残念ながらイマイチとしか言いようがないのだ。

本レビューの寄稿当時は、タイミング的に第2作目が絶賛公開中の時期であるが、今作を鑑賞して劇場に足を運ばせる程の訴求力は、僕個人としてはあまり感じられなかったし、キャラクターは確かに可愛らしくあるのだが「ミニオン」のような造詣としての独創性には欠けているしで、可愛いというその強みだけでシリーズ化するのはちょっと無謀なんじゃない?と素人目ながら感じてしまった作品だった。
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