垂直落下式サミング

スパイダーマン:ホームカミングの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.3
ヒロインが褐色のハーフ女性だったり、ウザ可愛いデブのサイドキックなど、新しい要素を概ねすんなりと受け入れられた。
この作品で、蜘蛛の超能力を手に入れる件やベン叔父さんが死ぬ件をスパッと省略できたのは、サム・ライミ版とマーク・ウェブ版がそれらを丁寧に描いていたからこそだろう。このジョン・ワッツ版も含めて、どのシリーズもそれぞれ方向性が違って高水準なのがいいな。居心地のいいコロンビア映画から、ドロドロのアベンジャーズへの出向に心配してしまったが、なかなかほっこりさせられる。
しかしながら、彼がかつてケツ十字キラーだった事実はなかったことにされているようだ。幸運にも本作では「地獄から来た男!スパイダーマッ!」と手を前に突き出したポーズをとることはない。日本人としてはなんとも寂しいとこである。船の事故はレオパルドンがいれば解決できたろうに、帰国時に国防上の観点から危険とみなされ税関で没収されてしまったのだろう。おのれSEALD!許せるッ!
さて、映画は主人公の幼さと無鉄砲さが全面に出ているコミカルなストーリー展開で、トニー・スタークに見出だされたことに舞い上がる高校生のスパイダーマンの奮闘が楽しい。今回のピーター・パーカーは、アイアンマンから貰ったスーツに依存しており、それで調子にのって大事件を招き本人の成長に繋がるという流れもオーソドックスながら感動してしまう。
スーツ依存というのがキモで、これは道具の正しい使い方についての映画なのだ。「大いなる力には大いなる責任がともなう」の“大いなる力”というのは、パトロンになっているスタークおじさんからプレゼントされたもので、そのハイテクな機能が搭載されたヒーロースーツが物語上の重要な役割を一手に請け負っている。
ヒーローの鏡として、悪意を持って道具を使うのが敵役のマイケル・キートン。彼は、瞬殺モードを回避するピーターとは真逆の存在だ。アベンジャーズは毎回世界を滅ぼそうとするヴィランと戦っていたが、今回は敵は規模の小ささがいい。あの町工場感。特に、最新鋭機器がガテン系に雑に扱われる様子をみるとドキドキしてしまう。ここでも、道具をどんなふうに使うのかで、その人物の性質を示していくのが上手い。社長ったら何でそんな磨耗しそうな使い方するのっ!?そんなに激しくしたらだめえ!ラジエータがこわれちゃうのぉ!と、ドMならではの見方をすると楽しめる。他にもツール関連だと、ネッドがスパイダーマンスーツを「かっけぇ!かっけぇ!着ていい?着させて!」とオモチャとしてしか見ていないのが無邪気でかわいい。俺も座ってる人になりてぇなぁ。
ピーターがヴァルチャーと対面してしまうホームカミングに向かう場面。車内にはドン…ドン…ドン…と、タイヤがマンホールを踏む音が響き、その鈍い音が密室のなかで徐々にピーターの心音に重なっていく表現が非常にスリリングだ。
最後のシーンの終わり方、とりあえず学校はちゃんと出て、ご近所をパトロールするご当地ヒーロー活動に専念すると、成長したピーターの選択はすごく爽やかな結論。等身大のティーンエージャーらしく今後が楽しみだ。よく考えりゃ「僕がスパイダーマンだ」などと言わせて、15歳の少年にコテハンを背負わせるなんてどうかしてるぞ。トニー最低だな。不倫しろ。ウルトロン騒動から株を落とし続けるアイアンマンであった。