天豆てんまめ

疑惑のチャンピオンの天豆てんまめのレビュー・感想・評価

疑惑のチャンピオン(2015年製作の映画)
3.3
ツール・ド・フランスで前代未聞の7連覇を達成したランス・アームストロング。彼のドキュメンタリーを観て、このフィクションを観る。ランス役のベン・フォスターも非常にいいのだけど、実際のランスの方が更にいい男だ。生きる伝説、時代の寵児になるのは分かる。NIKEのCMでは疑いをかけられながらも、周囲はどうとでも言えばいい、JUST DO ITと言っていたが、JUST DO ITの意味が違ったようだ。映画だとアングルにより、自転車の疾走感やアルプスの山々の風景がより美しく映える。でも、彼の実像を知るにはやはりドキュメンタリーの方がいいかもしれない。

偉大な功績も勝利も成功も、根本が嘘であれば、全ては水泡に帰す。
彼ほど、美談と汚名を多く受けたスポーツマンはいない。
彼の遺した功績と彼の犯した罪、どちらが大きいのだろう。

彼は罪悪感もなくドーピングをし続け、優勝し続けた。監督とチームメイト全員と関わる組織も皆、ドーピングを必要悪と嘘をつき続けた。彼も会見で嘘をつき続けた。引退後、全てを告白した。そして、全ての功績をはく奪され、永久追放された。

ステージ3の精巣ガンで脳転移から復活して、7連覇という奇跡で多くの人に勇気を与えた。ガン患者への支援団体を設立し、5000万ドル以上の寄付をし、小児ガンの子供たちへの支援を今も続けている。

ただ、その根元には大きな嘘があった。それは許されることではない。一方で、支援活動を通じて、多くの人を救ったのも事実。嘘をついて多くの人を救った人間と、嘘をつかなくても誰も救わない人間がいる。彼の行った善意の価値は全て無になるのだろうか。彼を悪人とだけ突き放すことができない。その功罪をどう見るか、何を感じるかはあなた次第だ。

世界中の何百万人にとって、彼は、人生を高揚させる真のヒーローだったのだろう。多くのファンは今、堕ちたヒーローに何を感じているのだろうか、、間違いなく言えるのは、そうした多くのファン、いや、ファンだけでなく、彼に希望を抱いていた病に苦しむ人たちを裏切り、深く悲しませた罪はとてつもなく重い。