茶一郎

タンジェリンの茶一郎のレビュー・感想・評価

タンジェリン(2015年製作の映画)
4.3
 一見、古き良きハリウッド映画が始まったのか、と思わせるオープニングクレジットから始まるクリスマス映画。しかし映画が始まってすぐ「ファッキン!クリスマス!」でそのムードさえぶち壊す。
 ヒールをはいたトランスジェンダーの女性はハリウッドの有名なあの歩道「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイム」をズカズカと歩く、まさにハリウッドの殿堂を踏みつぶす本作『タンジェリン』は、何と全編iPhoneで撮影したという挑戦作です。
 
 かつてゴダールがカメラを持って外に飛び出し自由に映画を作ったような、『タンジェリン』には「デジタル・ネイチャー以後のヌーヴェルヴァーグか!?」と言いたくなる自由さ・軽やかさを感じる作品でした。
 その軽やかさは、「iPhoneでも最高の映画が撮れる」という手法によるものである以上に、何よりもショーン・ベイカー監督のセクシャル・マイノリティ、そして貧困層への温かい眼差しです。本作に登場するトランスジェンダーの女性、買春でクリスマスを何とかしのごうとする女性、移民のタクシー運転手、全てのキャラクターが伸び伸びと物語内で生きている。本当に自由な映画でした。
 そして自由な映画『タンジェリン』はただ自由なだけではなく面白い!最高にクールでコミカルな会話と『ナイト・オン・ザ・プラネット』に匹敵するタクシー密室コメディ、最後の大団円に加え、友情の讃歌として感動的に幕を閉じるのですから驚きです。
茶一郎

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