ちろる

真珠のボタンのちろるのレビュー・感想・評価

真珠のボタン(2015年製作の映画)
4.3
前作「光のノスタルジア」とは異なり、こちらは歴史に辿りながらも、民俗学的、そしてスピリチュアル的な観念が多く語られている。
今から1万年以上前にパタゴニアにやってきた民族たち。
彼らの貴重な写真がいくつか残っている事にまず驚かされる。
チリで唯一の海洋民族は海を身近に感じ、長い間海と過ごした。

人間は死んだ後に星に生まれ変わると信じた原住民たち。
地上に固執せずに自らの体の中に宇宙を描くき、魂を輝かせたという。
これが示すものとは?

遠く離れた北部の砂漠で天体を見上げる人々も魂のいく末を探している。
体に宇宙を描いた彼らも、天体を見上げる科学者たちの行為は、どちらも自分探しの旅なのかもしれない。

数千万年前の言葉を紡ぐ残された小数部族の残り香たちが悲しい過去を瞳に携える。

この作品の核は、石器時代から産業革命の時代へタイムスリップする事になった、奇妙なジェイミーボタンの物語」
フィッツロイの扉が原始的な彼らの生活を変えていったその過去が何かを失わせてしまったきっかけとなるとは・・・

悲惨なクーデターと、宇宙の爆発
チリが隠し続けた残虐な罪。
美しい海は、恐るべき死の収容所と化し、後に残るはレールに残された真珠のボタン。

故郷を永遠に奪われた、悲しき部族たちの言葉なき訴えである。

我々の世界は美しいけれど、奪われるものと奪うもので繰り返される。
人間が度重なる罪の証拠を土地や水に葬ったとしても、結局水が記憶する。

肉体が朽ちたその後にも、悪しきことも良きことも、私たちが永遠の命を本当に失うのはずっと、ずっと先の事なのだろうかと思うと今ある我々の生き方に責任を持たなければならないとひたすら思う。
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