近本光司

光のノスタルジアの近本光司のレビュー・感想・評価

光のノスタルジア(2010年製作の映画)
2.5
宇宙から眺め下すと、チリのアタカマ砂漠は青い球体についた茶色い染みのように見えるという。二十世紀以降、青い惑星の染みのもとに、世界中から天文学者と考古学者たちが集まってくる。前者は巨大な望遠鏡を設えて天体を見上げ、後者は前史時代の遊牧民が岩肌に遺した紋様を読み解こうとする。わたしたちが想像しうる過去のさらにまた過去を研究する人たちの語りにたいして、グスマンはまたひとつ別の視座を導入する。十数年に及んだピノチェト政権の横暴。十九世紀にアタカマ砂漠で拵えられた鉱山労働者のための施設をそのまま居抜きで強制収容所とし、反体制の不届き者の遺骸をひと知れず砂漠に埋める。原住民たちの歩みよりも、天体の向こうから届く光源よりも、ずっと手近なはずの過去が歴史の暗部に葬られていることの苦々しさ。「宇宙の壮大さに比べたら、チリの人々が抱える問題はちっぽけに見えるだろう。 でも、テーブルの上に並べれば銀河と同じくらい大きい」。このグスマンが吹き込んだナレーションがすぐれて示すように、グスマンはひとつのモチーフにたいして宇宙的なスケールから直近の酸鼻きわまる歴史という複数の視点を重ね合わせるも、チリの現代史にとって切実たる問題を相対化することはない。この態度に感銘を受けつつ、わたしは言葉と映像とを冗長に紡ぐ詩性がどうも受け入れられなかった。ノスタルジアが渋滞している。