えむえすぷらす

LBJ ケネディの意志を継いだ男のえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

5.0
ジョンソンが大統領予備選に敗れケネディ政権の副大統領となり急進的な政権の公民権法の制定の動きに議会内工作の困難さから反対していた所、JFK暗殺が起き彼の夢、自らの力で大統領になる夢が絶たれ、ケネディ政権を継承しつつ公民権法の制定に尽力する事になる。

・ジョンソンは議会人であり大票田の一つテキサス州の民主党票を握る議会工作、利害調整のプロである。そのタフネゴシエーターぶりは劇中でも再現されている。米連邦議会の独立性は高い。大統領が両院総会で演説するのは就任後だと年1回の一般教書演説に限られる。予算承認と立法の鍵を握るのは民主、共和両党の議員達であり、ホワイトハウス側が一方的に押し付ける事は出来ず議会工作は必須となる。
・副大統領は大統領に何かあった時、空白を作らず引き継ぐ大統領のスペアの意味が強い。なのでジョンソンのスタッフはケネディ陣営で副大統領をやる事について棚上げじゃないのかと疑った。
・南北戦争後、約100年間人種差別、人種分離の状況は大きな変化はなく教育機会格差など温存された。公民権運動はこの状況をようやく変えた。
・ダークセン上院議員は共和党の上院院内総務。

映画はジョンソンの大統領予備選で自ら駆け出さない選挙戦から始まり、党大会での敗退、ケネディからの副大統領候補起用承諾、大統領選勝利と副大統領就任での権限確保、その中での南部議員の固陋さ、そしてケネディ大統領の暗殺、ジョンソンの大統領就任、両院議員総会演説へと進んでいく。

映画の主題はジョンソンが何故公民権法制定に鞍替えしたのかという謎の描写にあると思う。彼の家のアフリカ人女性料理人の長期休暇でテキサス州に戻るのに車移動だと言われて自分の犬を連れ帰らせようとして拒否された経験を話すシーンがある。アフリカ系の人の自動車旅は使えるトイレ、食事や宿泊先が確保できない町では一刻も早く通過する必要があった。事前情報収集が重要であり危険な町では止まらない事が大事だった。ジョンソンはこの話を元に差別の終焉をもたらす公民権法の必要性を理解して、元議会人、タフな利害調整者から調停者へと変貌してケネディの遺産である公民権法案を押し通した。

主題が公民権運動なのでベトナム戦の話は出てきません。90分台で二つの時間軸であの日までを描きそこからジョンソンの本気の決意を目の当たりにする事になる。
ジョンソンは不遇な人です。自ら勝って大統領になる夢はケネディが在任のまま暗殺された事で絶たれた。映画は国内二分の対立になりかねない公民権法制定をジョンソンだからできる調停者としての政治を示唆して終えた。彼が成し遂げた事は多く、その一方でベトナム戦争は激化のまま二期目出馬せず共和党のニクソンがその後を受けてワシントンペーパー事件、そして彼の二期目を途中で辞任に追い込んだウォーターゲート事件へと進んでいく事になる。