映画漬廃人伊波興一

狂恋の女師匠の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

狂恋の女師匠(1926年製作の映画)
5.0
この地上からきれいサッパリ消滅している筈なのに、どうしても消えない恐るべし(存在感)❗️

それはやはり世界のどこかに存在しているから、ではないでしょうか?

溝口健二
「狂恋の女師匠」

当時17歳だった淀川長治御大を狂わせたというのだから余りに恐ろしい映画に違いない。

以下、全て抜粋です。

淀川長治御大の口調を想像しながら心して読まれよ。
願わくば(嫉妬と羨望)の歪んだ快楽が得られますように。

【全体の感想】
ビックリ仰天したの。
何ていいものか、思って。
これ全部口で映写できるよ(笑)
これが僕の溝口健二への開眼となった作品。

【オープニングについて】
夏の晩の庭が映りました。
キャメラが寄ってきました。
誰もいない離れ。
だんだん寄ってきました。
濡れ縁があってそこの隅に何か煙が出てました。
何だろうと思うと、
それは蚊取り線香。
そこから煙が流れてました。
キャメラがどんどん寄ってきました。
誰もいない離れです。
その庇に白い岐阜提灯が、無地の提灯が吊ってありました。
ずーっとずーっと寄ってきました。
シーンとしてます。
まだタイトルないね。
あら、なんだろう、なんだろう思ってると、その提灯がバァァアッと燃えて、火が出て、バサァッと落ちたところから「狂恋の女師匠」というタイトルが出ました。
うまいなぁ。
面白いタイトルだなぁ。

ー淀川長治映画塾最終講演より「サヨナラ特集淀川長治」河出書房

【怖かった💧演出について】
延志賀が死んで、それを知らせに行く新吉「えらいこっちゃ。お師匠はんが死んだんでっせ」そしたら、「何言うてんの。人力車で今来たとこや」言うのね。
「そこで寝てますがな」いうとこが怖いなぁ。
キャメラがそっち向くのね。
「そんなはずない」言いながら這い上がっていくところがいいんだね。
ずっとふすま開けるとこ、ぞっとしたよ。
新吉とお久が駆け落ちしていく。
二人は船に乗るのね。
「はぁ怖い、はぁ暑い」いうて女が手を水に浸けるの。
その手に櫛がひっかかった。
その櫛に毛がついとるの。
そういう瞬間の怖さったらないの。

ー映画に目が眩んで口語篇より

この地上からきれいサッパリ消滅している筈なのに、どうしても消えない恐るべし(存在感)❗️

それはやはり世界のどこかに存在しているから、ではないでしょうか?



② 現存が確認されていないにも関わらず今も持って語り継がれる恐ろしい映画


淀川長治さんは実際にご覧になったそうです。淀川さんの後に続いた評論家たち、映画人たちにいかに面白く切なく悲しく恐ろしい作品だったかを語り継いでいかれたそうです。

淀川さんは大変なサディストであるらしく観たくても観れない彼らの羨んだ眼差しを心から楽しんだそうな。

蓮實重彦さん、山根貞夫さん、上野昴志さん、小川伸介監督から北野武監督にいたるまで淀川さんの語り口に嫉妬したそうです。

「狂恋の女師匠」は観れなくても淀川さんの紹介解説だけでも味わいたかった・・